HOME 
 

日本神経回路学会 オータムスクール

ASCONE2007 『知覚と運動を結ぶ脳機能』

Autumn School for Computational Neuroscience

2007年10月5日(金)〜 2007年10月8日(月)伊豆高原 ルネッサ赤沢


Opening Lecture 「運動知覚への数理的アプローチ」
岡田 真人 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 教授)

Lecture I 「盲視が明らかにする“気づき”の脳内情報処理」
講師:吉田 正俊 (生理学研究所)

Lecture II 「運動生理実験超入門:From Neuron to Newton, 脳はF=Maをどのように表現するか?」
講師:山本 憲司 (放射線医学研究所)

Lecture III 「運動指令の表現と運動計画」
講師:阪口 豊 (電気通信大学大学院)

Lecture IV 「歩行の計算理論 -生物とロボットの接点-」
講師:田中 宏和 (NiCT/ATR脳情報研)

Lecture V 「筋肉の活動から知覚を考える」
講師:小池 康晴  (東京工業大学精密工学研究所)

Special Lecture 
丹治 順  (玉川大学脳科学研究所 所長)

最終日招待講演以外は、1講師1トピックについて、 以下のスケジュールで行っていきます。
  1. 「事前知識レクチャー」(約1時間)
    問題意識までの導入を行います。 例えば、不思議な脳の現象などを紹介し、 その問題を考えるための材料を提供します。
  2. 「グループ討論・演習」(約2〜3時間)
    小グループに分かれて、提示された問題について自ら考えながら、 チューター、講師らと共に討論します。 最終的にそのグループの意見として全体に発表できるように、 意見をまとめていきます。
  3. 「グループ発表及びレクチャー」(約1時間)
    各グループで行った討論の結果を代表者が全体に発表します。 各グループの意見に対する見解を交えながら、 講師による解説を行います。

10月5日

13:00-13:15 開催の辞

講義録 瀧山 健, 大森 敏明 【日本神経回路学会誌掲載】

招待講演: 岡田 真人 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 教授)

13:15-14:15 講演

14:15-16:15 グループ討論・演習

16:15-17:15 グループ発表及び講演

19:00-21:00 Welcome party

10月6日

講義録 大前 彰吾 【日本神経回路学会誌掲載】

Lecture I 「盲視が明らかにする“気づき”の脳内情報処理」

吉田 正俊 (生理学研究所)

「盲視」は第一次視覚野が損傷した患者さんの一部で見られる不思議な現象です。第一次視覚野は網膜からの視覚入力が大脳皮質で処理される入り口にあって、ここが損傷すると視野欠損ができます。つまりこの視野の中にあるものはなにも見えません。しかし、そのような患者さんの一部では、欠損視野の中の視覚情報を使って行動することができる人がいることがわかりました。たとえば、欠損視野にマルかバツを提示しておいてどちらなのか当てずっぽうに答えてもらうとなぜか正解してしまうのです。このような現象を盲視と呼びます。この症例は「視野上にものが見えること」と「視覚情報をもとにして行動すること」とが同じではないこと、そしてそれらが脳のべつの部分で担われているということを示唆しています。

さて、しかし患者さんは暗点の中になにも見えないと言いますが、どうやってこれを証明したらいいのでしょうか。患者さんは嘘をついているのではないということはどうしたら示せるでしょうか。なにかが見えているかどうかを報告する能力は、視覚意識のなかで報告可能な部分として、「気づき」(visual awareness) と呼ばれます。本講義では盲視という現象を通して「気づき」とはなにか、どうすれば「気づき」を科学的にそして定量的に扱えるか、そしてどうすれば「気づき」の脳内情報処理を明らかにすることができるか、ということを参加者の皆さんと一緒に議論していきたいと思います。

本講義ではMATLABとpsychophysics toolboxを使用した単純な心理物理的実験を体験していただく予定です。準備の手順を記したサイトを作成しました。こちらを元にしてご準備いただけましたらよりスムースに実習を進めることができると思います。

なお、盲視という現象の紹介を生理研のwebサイトに作成しております。ぜひ参考にしてください。

9:00- 10:00 事前知識レクチャー

10:00-12:00 グループ討論・演習

討論課題:
  • 「気づき」とはいったい何だろうか? 盲視で失われているのは「気づき」だろうか? 検出課題で見ているものは「気づき」だろうか? もっとrefineできるような問題設定はないか?
  • 「気づき」を検証するにはどうすればよいか? それは他の要素(例えば「注意」)と混ざってないか? いっそのこと「意識」自体を検証できないだろうか?
  • 「気づき」の回路モデルを作れないだろうか? 検出と弁別はどういう関係にあるか? 「気づき」と「注意」はどういう関係にあるか?

12:00-13:00 昼食

13:00-14:00 グループ発表及びレクチャー

講義録 廣瀬 智士 【日本神経回路学会誌掲載】

Lecture II 「運動生理実験超入門:From Neuron to Newton, 脳はF=Maをどのように表現するか?」

講師:山本 憲司 (放射線医学研究所)

林檎が木から落ちるのを見てアイザックニュートン(1642-1727)が思いついた運動方程式F=Maにより世界は動く。Fという力をMという質量に与えるとaという加速度をもつ運動に変換される。これは我々が腕を動かすときも同じである。Fという力を出すように筋肉が活動すると質量Mの我々の腕はaという加速度で動く。では、我々の脳は腕を動かすための力Fをコードしているのだろうか、それともどのように腕を動かすかというaをコードしているのか?この疑問についての神経科学的論争が過去40年間(1967-)繰り広げられた。本講義とグループ討論・演習を通して脳がF=Maをどのように表現しているのかを考えることで運動生理実験の基礎を学ぶ。

14:30-15:30 事前知識レクチャー

15:30-18:00 グループ討論・演習

18:00-19:00 夕食

19:00-20:00 グループ発表及びレクチャー

10月7日

講義録 松嶋 藻乃 【日本神経回路学会誌掲載】

Lecture III 「運動指令の表現と運動計画」

講師:阪口 豊 (電気通信大学大学院)

人が身体を動かすとき,脳はそれに先だって必要な運動指令を定めなくてはならない.このように,目的とする運動を実現するのに必要な運動指令を求める問題を「運動計画」と呼ぶ.

一方,ある場所から別の場所まで手を動かすとき,その動かし方には無数の方法があるにもかかわらず,だれが手を動かしても,手はだいたい同じような軌道を描く.このことは,人間の運動計画が一定のルールの下で行なわれていることを示している.

運動制御の計算理論の分野では,このルール(最適化規範)を明らかにする研究が盛んに行なわれてきた.今回の講義では,このルールに関する研究の流れを紹介した上で,これまでの研究の中でほとんど議論されてこなかた「運動指令をどのようにして表現するか」という問題について議論する.さらに,「表現の良さ」「表現の単純さ」といった基準を考えることで,運動計画の新しいルールが得られる可能性について議論する.

今回の講義ではさらに,脳がごく短い時間(目標が見えてから手が動き出すまでの時間は200ミリ秒程度にすぎない)のあいだに運動指令を生成できる仕組みについても議論したい.

9:00- 10:00 事前知識レクチャー

10:00-12:00 グループ討論・演習

12:00-13:00 昼食

13:00-14:00 グループ発表及びレクチャー

講義録 杉本 徳和, 有木 由香 【日本神経回路学会誌掲載】

Lecture IV 「歩行の計算理論 -生物とロボットの接点-」

講師:田中 宏和 (NiCT/ATR脳情報研)

動物が為す運動のうち、身体を移動させること(ロコモーション)は最も基本的な運動のひとつです。本講義では、ロコモーションの一形態である歩行に関して、最適化理論、ロボットの制御理論、そして生物の神経メカニズムについて概観します。まず、動物・昆虫がどのような歩行パターン(ゲイト)を示すかを説明した後、このようなパターンが効率を最大化するという観点からどのように理解できるかという最適化理論を紹介します。次に、アシモに代表されるヒューマノイドロボットが用いている工学的制御方法、特に予測制御を用いた重心やゼロ・モーメント・ポイントの制御に関して解説します。そして、動物はどのような神経メカニズムに基づき歩行のリズムを生成しているのかに関して、セントラル・パターン・ジェネレータに関して説明します。

グループ討論・演習ではどのような歩行メカニズムが考えられるかを、物理計算エンジンを用いて実際にシミュレーションしてみます。プログラミングの経験がある方にはOpen Dynamics Engineを使っていただきますので、以下のサイトを参考に講義前にインストールをお願いします。

Open Dynamics Engine 本家  金沢工大 出村先生のサイト

プログラミングの経験があまりない方には、グラフィカルユーザーインターフェイスのプラットフォームを用いていただきますので、以下のサイトを参考にしてください。

Juice  Modulobe

14:30-15:30 事前知識レクチャー

15:30-18:00 グループ討論・演習

実習課題:
  • Open Dynamics Engine (ODE) という物理シミュレーションライブラリを用いたC言語プログラムを使って、CPGコントローラを持つ四足歩行ロボットや蛇型ロボットのシミュレーションを行い、CPGやアクチュエータのパラメータを変えることで、最も効率のよいゲイトを競う。
  • GUIで簡単にロボットモデルを作れるjuiceというソフトウェアを使って、 思い通りのロボットを生成する。

18:00-19:00 夕食

19:00-20:00 グループ発表及びレクチャー

10月 8日

講義録 古屋 晋一 【日本神経回路学会誌掲載】

Lecture V 「筋肉の活動から知覚を考える」

講師:小池 康晴  (東京工業大学精密工学研究所)

落ちてくるボールを受け取れるからといって,重力加速度が 9.8m/sec2 であると人が認知しているのではない.何らかの計算を行ってボールが落ちて来る時間を予測てして正しく受け取れているが,絶対的な時間の予測を行っているとは考えにくい.なぜなら,0.4sec 後に落ちてくるなどと,数値では答えることが難しいからである.

また,物を持って望みの位置に動かす為には物体の大きさや重さを認知して,適切な運動指令を出さなければならない. 運動が適切に行えたならば,物体の重さなどを認識していると客観的に言えるだけであり,主観的には,人それぞれ,大きさや重さの予測や知覚が異なっているかもしれない.同じ重さのものを持っても,ある人は重く感じ,ある人は軽く感じるということはよくあることである.人が感じる感覚は主観的であるが,他者がどう感じているかを理解することは,客観的な基準により判断する必要もある.

運動を生成している筋肉の活動を調べることで,本人にも気が付かない不思議な知覚現象を実際に感じてもらいたい.

9:00- 10:00 事前知識レクチャー

10:00-12:00 グループ討論・演習

12:00-13:00 昼食

13:00-14:00 グループ発表及びレクチャー

講義録 森重 健一 【日本神経回路学会誌掲載】

招待講演: 丹治 順  (玉川大学脳科学研究所 所長)

14:10- 16:10 講演

運営

鮫島 和行(玉川大学 脳科学研究所)
酒井 裕 (玉川大学 脳科学研究所)
渡辺 正峰(東京大学 工学系研究科)
山本 慎也(産業技術総合研究所)
加藤 英之(理化学研究所)
樺島 祥介(東京工業大学)

共催

日本神経回路学会
文部科学省科研費・統合脳5領域
文部科学省科研費・特定領域研究「情報統計力学の深化と展開」