脳の世界の謎は、人類の英知に最後に残された大きな砦です。 この数十年で、脳の中を観測する技術は飛躍的に進歩してきました。 しかし、実験的観測だけではどうにもならない謎が脳にはあります。 この謎を解く鍵となるのは、 物理学や情報学の世界で力を発揮してきた数理的アプローチです。 数理的アプローチによる脳の理解の一端を経験しながら、 脳科学への扉を開いてみましょう。
14:20- 受付 (昼食を済ませてから集合してください)
14:50- 開催の辞
我々ヒトを含む動物の柔軟な意思決定、巧みな感覚運動は知られているよりも、もっと複雑で多様なはずです。しかし、これまでの認知神経科学研究は、極めて単純化された実験課題が用いられており、自然界における動物本来の能力を発揮させるには限界がありました。一方、自由行動下での無秩序な実験系では、実験的に制御できない要因が増えすぎてしまいます。これらの問題を一挙に解決できる手法として、ヴァーチャルリアリティ (VR)を導入した実験系が挙げられます。動物の日常的かつ自然に近い環境を提供しながらも、ほとんどの要因を制御可能となります。こうした利点を生かし、今後の研究の展開として、動物一個体が環境適応するために複数の戦略を自在に駆使し、柔軟に切り替える『感覚-意思決定-運動』を一連とした脳統合神経機構に注目しています。
基礎講義ではまず、主にマカクザルをモデル動物とする一般的な認知神経科学研究を紹介します。具体的には、物体・身体の運動知覚、報酬獲得戦略、空間認知などをとり挙げます。グループ討論では、『感覚-意思決定-運動』の脳統合神経機構をテーマとした、新規共同プロジェクトを提案していただきます。今後のニューロサイエンス研究の発展・方向性について議論し、重要で注目される研究についての洞察を養うことを目指します。発展講義では、新規課題としてVRを駆使して多時空間に発展拡張させた、ナビゲーション、追跡・回避行動などをとり挙げます。
15:00-16:00 基礎講義
16:00-18:00 グループ討論
18:00-19:00 夕食・ポスター
19:00-20:00 グループ発表
20:00-20:30 発展講義
私たちは不確実な環境の中で日々何らかの判断を下している。そのたびに、自らの選択に対して「その判断は本当に正しかったのか?」という“確信度”が立ち上がる。こうした確信の程度は、自らの行動を省みて次によりよい判断をするために重要な認知過程と考えられ、しばしばメタ認知と呼ばれてきた。そして、確信度は主観的な感覚にすぎないようでいて、外部から数理的にも定義でき、さらに行動を通じて客観的に測定しようとする試みが重ねられている。本講演では、行動指標・数理的定式化・神経活動の三つの観点から確信度研究の現状を概観し、行動と数理、そして脳を結ぶアプローチの一例を示したい。また、確信度という概念は実験室における研究対象であると同時に、本質的に不確実な世界を生きる私たちにとって避けて通れないものでもある。すなわち、確信度をめぐる問いは私たち自身が「よく生きる」ための問いともいえる。
9:00-10:00 基礎講義
10:00-12:00 グループ討論
13:00-14:00 昼食・ポスター
13:00-14:00 グループ発表
14:00-14:30 発展講義
ヒトiPS細胞を三次元培養すると、自発的に多様な細胞集団が層構造をもつ組織へ自己組織化する。これが脳オルガノイドであり、将来的に脳様の情報処理を担うことが期待される。もし培養回路に自在に「学習」させるための条件を理解し、実験的に達成することができれば神経科学に新たな実験基盤を拓ける。しかし現状、脳オルガノイドを自在に学ばせる段階には至っていない。本講義では最新研究を踏まえて現状を批判的に整理し、学習に必要な回路構造・細胞特性・駆動因子などを議論し、そのための実験的な枠組みや機能の定量法を討論する。
15:00-16:00 基礎講義
16:00-18:00 グループ討論
18:00-19:00 夕食・ポスター
19:00-20:00 グループ発表
20:00-20:30 発展講義
ヒトは生まれながらに持つ身体を使いこなせるように学習し、発達していく。では、もし生まれながらに持たない新しい身体部位が授けられたとき、ヒトはそれを自らの身体の一部として受け入れるのだろうか?こうした問いに挑戦するため、私たちは機械で作った新しい身体部位をヒトが装着したとき、それが自らの身体の一部として「身体化」するのか、そして脳はそれをどのように表現し、取り込むのかを研究している。こうした問いをさらに抽象化した視点から眺めると、それは脳の「余白」―神経活動で表現可能な情報空間の余剰部分―に新たなメスを入れる全く新しい研究アプローチになりえると私たちは考えている。本講義では、私がこれまで行ってきた新しい身体部位の身体化の講演内容とは一線を画し、神経多様体、余剰次元などの基礎概念から出発し、free neural activityに基づく神経拡張へと至る大胆な仮説を提案する。こうした仮説を実証するためのモデル解析や簡単な知覚実験を紹介しつつ、(可能であれば)実際に手を動かし体験しながら、参加者の皆さんとヒト脳機能の拡張可能性を探求したい。
9:00-10:00 基礎講義
10:00-12:00 グループ討論
12:00-13:00 昼食
13:00-14:00 グループ発表
14:00-14:30 発展講義
認知神経科学では、脳を情報処理装置ととらえ、そのしくみを探ることから「心」と「身体」にアプローチします。例えば、私たちは日々多くの情報に触れていますが、脳は、全てを取り入れるのではなく、必要な情報を選別しています。一方で、意識にのぼらない多くの情報を取り入れており、私たちの意思決定や気分・情動は、このような潜在的情報によって大きく影響を受けています。加えて、脳は、経験や学習によって情報を獲得することによって世界を理解し制御します。このような情報処理がうまく働かなくなると、こころや身体に不調をきたします。また、脳の情報処理には多様性があることもわかってきました。このような脳のしくみを理解することで健全な心身の維持や機能の改善に貢献することが期待できます。
本講義では、脳活動の計測や非侵襲刺激による脳や神経への介入、計算モデルなどを組み合わせ、神経疾患や精神疾患、神経発達症、さらにはウェルビーイングにアプローチする試みを紹介します。
15:00-16:00 基礎講義
16:00-18:00 グループ討論
18:00-19:00 夕食・ポスター
19:00-20:00 グループ発表
20:00-20:30 発展講義
近年、神経科学に関係した様々なデータが公開され、実際に実験せずとも自分の興味に従った解析を行い論文まで出版できる時代になってきています。このような流れから、発表者が所属している学術変革領域A「行動変容生物学」では行動変容を理解するためのリソースとして、マウスのオペラント学習課題における包括的なデータを公開しました。このデータでは、2週間におよぶ学習過程とその際の全脳の活動をカルシウムイメージングで計測しています。さらにこれと同時に高速ビデオ撮影を行い、体、顔、目や環境パラメータを計測し、様々な解析ができるようにしました。そして、これらのデータは現在神経科学において標準的なフォーマットと呼ばれるNeurodata without Borders (NWB)形式を利用し、再利用性を高めています。今回の演習ではASCONEの最終日を飾るべく、最高難易度の課題として2時間という短時間でデータを解析して成果をだして発表していただきます。解説やチュートリアルは行いますが、事前学習は歓迎します。 以下の論文や、チュートリアルを事前にしていただいても構いません。いずれにせよ、ASCONEに参加された皆さんの実力を見せていただきたいと思います。
9:00 -10:00 データベース説明・チュートリアル
10:00-12:00 データ解析
12:00-13:00 昼食
13:00-14:00 グループ発表資料作成
13:30-14:30 グループ発表資料作成
14:30-15:00 発展講義