脳の世界の謎は、人類の英知に最後に残された大きな砦です。 この数十年で、脳の中を観測する技術は飛躍的に進歩してきました。 しかし、実験的観測だけではどうにもならない謎が脳にはあります。 この謎を解く鍵となるのは、 物理学や情報学の世界で力を発揮してきた数理的アプローチです。 数理的アプローチによる脳の理解の一端を経験しながら、 脳科学への扉を開いてみましょう。
14:10- 受付 (昼食を済ませてから集合してください)
14:50- 開催の辞
人間が日常的に生活する環境には多様な質感を持つ物体が含まれている.例えば,日々の食事で口にする果物が新鮮かどうか,散歩に出かける際の路面が凍っているか,といった物体の質感を我々は日常的に認識している.質感の認識は人間の価値判断や行動とも繋がる情報処理であり,人間の知覚・認知機能を包括的に理解するためには,多様な質感を含めた自然環境における認識を検討することが重要となる.しかし,脳の情報処理自体が複雑であることに加えて,物理的に複雑な自然環境を考慮した場合に,どういったアプローチで何を目的に研究をすることが心の機能理解に繋がるだろうか.本講義では,知覚・認知に関わる先行研究を紹介しながらこの問題を考えていく.特に,感覚器によってセンシングした信号から,実世界の情報と関連した統計量をどのように特定するか,そして階層的な脳情報処理に対してどのような人工モデルを設計して比較することが機能的理解を進めるのかに着目をして議論していく.
15:00-16:00 基礎講義
16:00-18:00 グループ討論
18:00-19:00 夕食・ポスター
19:00-20:00 グループ発表
20:00-20:30 発展講義
日本の大型脳科学プロジェクト「革新脳・国際脳」が2024年3月に終了し、その後継として「脳神経科学統合プログラム」が6年間のプロジェクトとしてスタートした。その大きな特徴は、マウスからヒトまで異なる種の脳の構造、遺伝子、結合、活動、そして行動など多様なデータを「デジタル脳」として統合し、脳機能の解明と精神神経疾患の診断、治療、予防に結びつけようとしていることである。
基礎講義では、理研CBSを中心とした「脳統合」中核機関の「デジタル脳」開発グループのリーダーである講師が、デジタル脳とはいったい何なのか、どんなデータと計算手法を使って構築しようとしているのか、どんな成果に結びつけることができるのか、現時点での計画を紹介したい。
グループ討論では、どんな「デジタル脳」をどのように作ることで、どのような理解や応用が可能になるのか、皆さんのアイデアや疑問を出し合いグループとしてのデジタル脳開発計画を提案してほしい。
発展講義では、進みつつあるデータ駆動モデル構築手法、そこでの大規模言語モデルの活用などについての話題を紹介したい。
9:00-10:00 基礎講義
10:00-12:00 グループ討論
13:00-14:00 昼食・ポスター
13:00-14:00 グループ発表
14:00-14:30 発展講義
脳はさまざまな機能を発揮するために活動の状態を時々刻々と変化させます。特に覚醒と睡眠のサイクルでは脳活動の状態は大きく変遷します。このような活動状態は、海馬や大脳皮質における神経細胞群のスパイク活動や脳波活動の変化として観察することができます。興味深いことに、海馬や大脳皮質の活動状態は、行動時とレム睡眠、安静時とノンレム睡眠でそれぞれ似通った特性を呈し、それらの変遷が認知や記憶などの機能に密接に関連することが示唆されています。
本講義では、ほぼ半世紀にわたる海馬の活動状態に関する生理学的研究の積み重ねを紹介します。なかでも齧歯類の海馬では、空間情報の処理機構をシータ波と鋭波リップルという活動状態の切換えで実現していることが確立されつつあります。
しかし、ここでは敢えて、多くの研究者が築き上げてきた海馬の定説がどれほど正しいのか少し疑ってみます。まあ、そうは言っても大概の定説はほぼ正しいものです。でも今日は、定説を疑う作業を通じて、皆さんに観察と解釈を常に分けて考える大切さを実感してもらいましょう。
15:00-16:00 基礎講義
16:00-18:00 グループ討論
18:00-19:00 夕食・ポスター
19:00-20:00 グループ発表
20:00-20:30 発展講義
860億ものニューロンが相互に接続する、この極めて複雑な「脳」という対象を、果たして人間の脳で「理解」することができるのだろうか──そんな素朴な疑問を抱いたことはないでしょうか。計算論的計算科学の立役者の一人であるDavid Marr氏は、脳を理解するための3つのレベルという明晰なフレームワークを打ち出しましたが、Marr氏の見解は最終的な答えではないようです。神経科学者たちの議論を追っていると、「脳を理解するとはどういうことか」に関する討論が、今なお活発に交わされている様子が伺えます。
本パートでは、そうした議論のいくつかを紹介しつつ、特に近年の神経科学の大規模データ化やAI技術の進展を踏まえて、「これから脳はどのように理解されていくと期待できるか?」について皆様と議論できればと思います。さらに時間が許せば、近年の「神経科学の哲学」に関する著作(Chirimuuta『The Brain Abstracted』など)を参照し、あらためて「計算」という枠組みで脳を捉える意義とありうる限界についても考えてみたいと思います。話題提供者は神経科学の専門家ではなく、内容も非テクニカルなものになります。気軽に聞いていただき、面白い議論ができれば幸いです。
9:00-10:00 基礎講義
10:00-12:00 グループ討論
12:00-13:00 昼食
13:00-14:00 グループ発表
14:00-14:30 発展講義
莫大なテキストデータをひたすら復唱するという単純な指針で作られた言語モデルは、言語運用能力・知識量・非定型的なタスクの実行能力など多くの面でヒトと同等レベルの知性を身につけているように見えます。言語モデル氏自身はこうした知的な活動を「分かって」やっているのでしょうか。もし「分かって」やっているとして、その「分かっている」度合いはヒトと同様だと言えるのでしょうか。人類の手元に突然現れた知的なエージェントに対するこうした問いを通して、ヒトの理解について考えるのが本講義の目標です。
まず人工ニューラルネットに対する「侵襲的な」実験設定や数理モデルを概観します。その後、「あるエージェントが質問に答えられるなら、そのエージェントは問題を理解していると言って良いのか?」「あるエージェントとヒトが、それぞれその内部で世界を同様のやり方で把握しているなら、エージェントとヒトは同様に世界を理解していると言って良いか?」といった、人工知能・自然言語処理分野における具体的な課題と研究を紹介します。これらの事例をヒントとして使いながら、理解を理解するとはどういうことかという困難な問いに迫るための愉しい議論ができればと思います。
15:00-16:00 基礎講義
16:00-18:00 グループ討論
18:00-19:00 夕食・ポスター
19:00-20:00 グループ発表
20:00-20:30 発展講義
人を含む動物の「学習」の研究は100年以上の歴史を持ち、すでに社会や産業でも応用が拡がる「機械学習」として、高度な技術として大成しつつある。一方、「理解」の研究は、哲学的論考を含めれば100年を優に超える(1000年以上もの)歴史を持つとも言えるが、未だ「機械理解」なる技術の基盤は整備されていない。本講義では、あえて「学習」と対比して、それと異なる認知能力としての「理解」に着目し、その経験的な現象を整理し、それを捉えるための計算論的なモデルについて論じたい。
本講義では、いくつかある本質的な違いとして、「学習」は経験(データ)の反復回数におおよそ単調に成績が向上するのに対し、「理解」は一回(0回)でも成立する場合もあれば何回経験しても成立しない場合もあるなど不定である点や、「学習」は無意識にできるが、うっかり(つまり無意識に)「理解」はできないことなどを挙げる。こうした現象面での違いは、「学習」と異なり、「理解」にはある種の離散的・不連続な計算過程があることを示唆すると思われる。未だ定式化できてはいない「理解」の諸相を、錯視、洞察問題解決、帰納推論などの具体的な事例を通じて議論する。
9:00 -10:00 基礎講義
10:00-12:00 グループ討論
12:00-13:00 昼食
13:00-14:00 グループ発表
14:00-14:30 発展講義
16時頃までには解散(15:39~16:32の電車には乗れるように)