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日本神経回路学会 オータムスクール

ASCONE2015 『脳の中の自己と他者』

Autumn School for Computational Neuroscience

2015年10月31日(土)〜 2015年11月3日(火) かたくら諏訪湖ホテル(JR上諏訪駅 徒歩10分)

厳正な選考の結果、24名の採用を決定いたしました。

講義スケジュール


Lecture I 『個体間を繋ぐ認知機構と、関係性の構築の内分泌制御』
講師:菊水 健史(麻布大学 獣医学部)

Lecture II 『霊長類動物を対象とする社会システム神経科学』
講師:磯田 昌岐(関西医科大学 医学部)

Lecture III 『"Model-based fMRI"で探る社会的意思決定の神経機構』
講師:鈴木 真介(California Institute of Technology)

Lecture IV 『ヒトの協力行動における直感と熟慮について』
講師:春野 雅彦(脳情報通信融合研究センター;CiNet)

Lecture V 『助け合うことの不思議』
講師:平石 界 (慶應義塾大学 文学部)

Lecture VI 『イワンの馬鹿とホモエコノミカス:社会秩序の2つの基盤』
講師:山岸 俊男(一橋大学大学院 国際企業戦略研究科)

1講師1トピックについて、以下のスケジュールで行っていきます。
  1. 「基礎講義」(約1時間)
    問題意識までの導入を行います。 例えば、不思議な脳の現象などを紹介し、 その問題を考えるための材料を提供します。
  2. 「グループ討論」(約2〜3時間)
    小グループに分かれて、提示された問題について自ら考えながら、 チューター、講師らと共に討論します。 最終的にそのグループの意見として全体に発表できるように、 意見をまとめていきます。
  3. 「グループ発表」(約30分)
    各グループで行った討論の結果を代表者が全体に発表します。
  4. 「発展講義」(約30分)
    講師による解説を行います。

10月31日

12:30- 受付 (昼食を済ませてから集合してください)

13:00-13:15 開催の辞

Lecture I  『個体間を繋ぐ認知機構と、関係性の構築の内分泌制御』

講師:菊水 健史(麻布大学 獣医学部)

アリストテレスはいう「Politics I.2, that human beings are by nature political animals, who naturally want to live together.」ヒトの特性は、広範な共同社会を構築し、お互いに助け合い、協力しあう社会であると。このような特性はヒトが特異的に獲得したものの、その根源となる機能、すなわち個体間が親和的な関係性を構築し、他者を受け入れ、仲間になり、やがて群れという社会を構築する、という神経科学的プロセスは、他の哺乳類でも観察される。このような他者を受け入れ、関係性を作り上げるためには、適切な社会認知機構と、それを支える内分泌応答が必要である。この個体間のやり取り、それを元に変化する個体の内的状態、をどのようにモデル化できるのだろうか。今回は生理的、行動学的視点から現象的な事実の紹介をし、その後、みなさんに、このモデル化を是非トライしてもらいたい。

13:15-14:15 基礎講義

14:15-16:15 グループ討論

討論課題:
「絆を構築する社会刺激と神経内分泌の連携メカニズムを考えよう」

個体間を繋ぐ絆の形成には、3種類のポジティブループが考えられる。1つ目は絆を形成する個体と個体のやりとりによるループ、2つ目は個体内で過去の経験により促進されるループ、3つ目には被養育経験が自身の養育行動に影響を与え、世代を越えて遺伝子を介さずに養育行動が伝承されるループである。一見、相手に示している行動が同一であっても、このポジティブループが回り始める場合もあれば、逆に攻撃的な意味をなす場合もある。このポジティブループに神経内分泌が関わっていることがわかっているが、他個体から示される社会的刺激や自身の行動と神経内分泌がどのように連携して、3つのポジディブループが回るのだろうか?

16:15-16:45 グループ発表

16:45-17:15 発展講義

18:00-19:00 夕食

19:00-21:00 Welcome party

21:00-24:00 Poster Session

11月1日

Lecture II 『霊長類動物を対象とする社会システム神経科学』

講師:磯田 昌岐(関西医科大学 医学部)

ヒトを含む霊長類動物が進化の過程で獲得した様々な知や技能は、社会における個体の生存・適応と社会全体としての生存・適応に最適化されたものであると考え、社会的認知機能の神経基盤を解明すべくサル類を用いたシステム生理学的研究を行っている。そのような実験研究においては、まず社会的認知機能の重要側面を捉え、それを霊長類動物が実行可能でしかも適切に統制された行動課題のなかに再現することが重要になる。そのうえで、課題を遂行する動物の脳内から神経細胞活動の記録・解析等を行い、各神経細胞や神経ネットワークのはたらきを明らかにしていく。今回の講義では、「自己と他者の区別」と「自己と他者の比較」という認知側面に焦点をあて、2頭のサルを同時に用いた新しい実験研究のストラテジーを紹介しながら、各々の神経機構について議論したい。

9:00 - 10:00 基礎講義

10:00-12:00 グループ討論

討論課題:
講義の中から「数理的アプローチ」の対象となりうる、あるいは対象としてみたい現象(実験データ)や視点を見つけ、それ(ら)について自由に討論しよう。
例:
  • 自己と他者の行為(運動)を区別するモデル(概念・回路・計算)。それは実験による検証が可能か。可能な場合、どのような方法か。不可能な場合、どういう技術的 発展があれば可能になるか。
  • 自己と他者の区別の度合い(境界性)は不変だろうか。赤ちゃんを「自分の分身(あるいは一部)」と言ったり、自分の同僚を「自分たち」と言ったりする。自他の識別(境界)は動的可変かもしれない。その修飾要因(生物学的・認知的・行動学的)は何か。 自他境界の可変性を神経科学的に捉える実験デザインとは。
  • メンタライジングの神経機構に関するモデル。例えば、神経細胞や神経ネットワークがどのような情報を表現し、それ(ら)をどのように演算処理すればメンタライジングが可能になると考えられるか。それは実験による検証が可能か。(以下同文)
  • MPFC細胞とDA細胞における自他の報酬信号の生成機構(特に両者の関係性に重点をおいて)。例えば、DA細胞の信号からMPFC細胞の信号が作り出されると考えてよいか。また、仮説を検証するにはどのような実験を行えばよいか。 DA細胞が表現する「報酬予測誤差」の計算過程に、他者の報酬情報はどのように組み込まれるか。

12:00-13:00 昼食

13:00-13:30 グループ発表

13:30-14:00 発展講義

Lecture III 『"Model-based fMRI"で探る社会的意思決定の神経機構』

講師:鈴木 真介(California Institute of Technology)

我々ヒトが社会の中で適切に振る舞うためには、他者の意図や行動を先読みし、それを踏まえて最適な意思決定を行う必要があります。 この「社会的意思決定」の神経メカニズムを、計算論的アプローチと脳イメージングを組み合わせる(i.e., Model-based fMRI)ことで、どこまで明らかにできるでしょうか? この講義では、まずModel-based fMRIについて概観します。 その後、具体的な研究課題として他者行動予測課題と合意形成課題を取り上げ、社会的意思決定の神経機構を議論する予定です。

15:00-16:00 基礎講義

16:00-18:00 グループ討論

討論課題:
  1. Suzuki et al. (2012)では、二種類の予測誤差がそれぞれ vmPFC と dmPFC で処理されていることが示されました。では、二種類の情報はどこの脳部位で "統合"されているのでしょうか? どのような解析を行えば分かるでしょうか?
  2. 「合意形成課題における被験者の行動」を再現し得る"計算論モデル"を考えてください。
  3. 神経科学は社会科学へどのような貢献ができるか?具体的な研究プログラムを考えてください。

18:00-19:00 夕食

19:00-19:30 グループ発表

19:30-20:00 発展講義

21:00-24:00 ポスターセッション

11月2日

Lecture IV 『ヒトの協力行動における直感と熟慮について』

講師:春野 雅彦(脳情報通信融合研究センター;CiNet)

協力行動はヒト社会の基盤です。 近年の研究の進展により協力行動はいくつかの異なる計算過程からなる複合的な実態であることが明らかにされて来ました。 今回の講義では、直感と熟慮という観点から、協力行動を産みだす神経メカニズムとその意味することを皆さんと一緒に考えます。

9:00 - 10:00 基礎講義

10:00-12:00 グループ討論

討論課題:
  • 不平等回避と罪悪感回避の神経基盤を同時に特定する課題、解析法を考えてください。
  • 罪悪感と右背外側前頭前野の脳活動が相関しましたがなぜいつも右なのでしょうか?仮説を考えてください。

12:00-13:00 昼食

13:00-13:30 グループ発表

13:30-14:00 発展講義

Lecture V 『助け合うことの不思議』

講師:平石 界 (慶應義塾大学 文学部)

ヒトという動物の特徴の一つに巨大な協力的集団を形成することがある。本講義では、自然淘汰理論から見たこの特徴の不思議さについて解説をする。その上で、集団協力場面を単純化した社会的ジレンマゲームをその場で実施し、社会心理学実験の現場で何が生じているのか、実験者と参加者の両方の立場から理解することを目指す。

15:00-15:30 基礎講義

15:30-16:30 社会的ジレンマゲーム体験

16:30-17:00 グループ作業(ゲームのパラメータ設定→実装)

各グループごとにゲームの目標を決め、そのような結果を導きそうな設定を考え、実装する。例「みんなが必ず裏切るようなゲームにしよう」

17:00-17:30 実験実施

17:30-18:00 分析とプレゼン準備

18:00-19:00 夕食

19:00-19:30 グループ発表

19:30-20:00 発展講義

21:00-24:00 ポスターセッション

 
 
 
 
 
 
 

11月3日

Lecture VI 『イワンの馬鹿とホモエコノミカス:社会秩序の2つの基盤』

講師:山岸 俊男(一橋大学大学院 国際企業戦略研究科)

社会科学では古くから、社会秩序の説明に2つの原理が用いられてきた。一つは制度による説明であり、もう一つは規範の内面化による説明である。ヒトの向社会性の説明原理を向社会的選好の進化基盤に求める現在の行動経済学の理論展開は、規範の内面化のアイディアを、内面化を促進する心的メカニズムの進化によって補強する動きとして捉えることができる。こうした近年の研究の中で軽視されてきたのは、社会科学の根本問題である制度構築の観点であり、社会的選好と制度との共進化(社会的ニッチ構築)の観点である。本講義では、(規範の内面化が完璧になされている)イワンの馬鹿を基盤とする社会秩序から、合理的なホモエコノミカスを基盤とする社会秩序への移行が可能かどうかを考えるために、私たちは何を研究すべきかについて、出席者の皆さんと一緒に議論したい。

9:00 -12:30 講義

12:30-13:30 昼食

13:30-15:00 全体討論

解散

ASCONE2015参加者からのメッセージ

岡本 直宏(京都大学 総合人間学部 B4)

あっという間の4日間でした。講義を聞くだけでなく、自分たちで納得のいくまで考え、議論する場はとても貴重で大変有意義な時間でした。さらに、全国から脳に興味のある同世代が集まり、各々が研究していること・興味があることについてとことん話し合い、交流できたこともとても大きな収穫でした。

平塚 和宏(立命館大学 理工学部 B4)

今まで関わることが無かった様々な分野の方々と交流することでき、大きな刺激を受け、とても勉強になりました。今回学んだことをもとに、今後に活かしていきたいと思います。

廣田 敦士(京都工芸繊維大学 工芸科学部 B4)

私は脳科学についての勉強は初めて、学ぶこと全てが新しいものでした。その上で重ねたグループ討論により、多くの経験を得ることができ、学問に対する興味が深まりました。自由時間にも自分の研究に関する議論をすることができ、非常に有意義な4日間となりました。

赤松 和昌(電気通信大学 情報理工学研究科 知能機械工学専攻 M1)

とても楽しく充実した4日間でした。普段関わることのない様々なバックグラウンドを持つ方々との議論を通じて、自分の受けてきた教育とそれに よって身についた考え方を再確認できました。自分の強みは何かを意識して今後の研究に取り組んでいきます。

川端 政則(玉川大学 脳科学研究科 M1)

ASCONEは自分の思考力の限界を知り、さらにそれを伸ばす場だと思います。脳に少しでも興味があれば十分で、背景知識はあまり必要ありません。 何がわからないかをはっきりさせ、それを質問して疑問を解決しながら聴講すれば講義は必ず理解できます。その上で討論課題に挑戦することで、より実践的に研究を疑似体験することができます。 また、厳しい選考を勝ち抜いた参加者たちと議論することで、それぞれの考え方や価値観の違いに触れることができ、自分の思考の幅を広げることができるでしょう。

水口 智仁(慶應義塾大学 医学部 B5)

参加者のバックグラウンドや年代が非常に幅広かったのが印象的でした。私は神経科学を学び始めて未だ日の浅い学部生ですが、参加者の皆様、特に同室だった方々との突っ込んだ議論を通して今後自分がやりたい研究へのヒントをつかむことができました。睡眠以外のほとんど全ての時間を講義や議論に費やすというハードなスケジュールでしたが、参加できて本当に良かったです。

佐藤 仁是(北陸先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 M2)

昨年も参加させていただきましたが、受動的なセミナーとは違い、脳みそに汗をかく程考える能動的なセミナーだと再認識しました。多くの専門性を持つ参加者の皆様とともに、講義内容だけでなく自身の研究内容にいたるまで様々な議論ができたこの機会を、今後に活かしていきたいとおもいます。

寺尾 勘太(北海道大学 生命科学院 D1)

実りある4日間を過ごすことが出来ました。最先端の研究を見聞きして、尽きない議論を交わすのがとても楽しかったです。 様々な分野の参加者や先生方のおかげで、視野も広がったように思います。 間違いなく良い経験になるので、皆さんぜひ参加してください。

運営

鮫島 和行(玉川大学 脳科学研究所)
酒井 裕 (玉川大学 脳科学研究所)
田中 宏和(北陸先端科学技術大学院大学)
筒井健一郎(東北大学 生命科学研究科)
山本 慎也(産業技術研究所)
渡辺 正峰(東京大学 工学系研究科)

顧問

丹治 順 (東北大学包括的脳科学研究・教育推進センター)
銅谷 賢治(沖縄科学技術大学院大学)
 

主催

日本神経回路学会

共催

新学術領域研究(文部科学省 科学研究費補助金) 東北大学包括的脳科学研究・教育推進センター