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日本神経回路学会 オータムスクール

ASCONE2022

Autumn School for Computational Neuroscience

2022年11月12日(土)〜 11月15日(火)  グランポート木更津(JR木更津駅 徒歩10分)
(宿泊:グランパークホテルエクセル木更津)

厳正な選考の結果、21名の採用を決定いたしました。

講義スケジュール

1講師1トピックについて、以下のスケジュールで行っていきます。
  1. 「基礎講義」(約1時間)
    問題意識までの導入を行います。 例えば、不思議な脳の現象などを紹介し、 その問題を考えるための材料を提供します。
  2. 「グループ討論」(約2〜3時間)
    小グループに分かれて、提示された問題について自ら考えながら、 チューター、講師らと共に討論します。 最終的にそのグループの意見として全体に発表できるように、 意見をまとめていきます。
  3. 「グループ発表」(約30分)
    各グループで行った討論の結果を代表者が全体に発表します。
  4. 「発展講義」(約30分)
    講師による解説を行います。

11月12日

14:20- 受付 (昼食を済ませてから集合してください)

14:50- 開催の辞

Lecture I: 『脳をリバースエンジニアリングする』

高橋 宏知(東京大学大学院 情報理工学系研究科)


通常のエンジニアリング(フォワード・エンジニアリング)では,実現したいこと(要求機能)を明確にし,具体的なメカニズム(機構)や構造を決めていきます.リバース・エンジニアリングでは,実物の機構や構造を整理したうえで,その設計者が考えたであろう要求機能を推測します.

「脳をリバースエンジニアリングする」とは,実験で明らかになった事実やデータに基づき,脳の要求機能,つまり,そもそも脳は何のためにあるのかを考えることです.人工知能の急激な発展もあり,人工知能は脳を超えるのではないかと喧伝されています.しかし,人工知能が脳を超えるとはどういうことでしょうか? 人工知能と脳は,共通の要求機能のもとに発達してきたのでしょうか? そのような視点から,脳の情報処理システムとしての特徴を考察します.

グループ討論では,リバースエンジニアリングにより,脳と人工知能・計算機を対比しながら,構造から要求機能の各階層で両者の特徴を整理します.その結果に基づき,次世代のニューロモルフィック計算機に実装すべき要求機能,あるいは,これからの神経科学で研究すべきテーマを議論しましょう.

15:00-16:00 基礎講義

16:00-18:00 グループ討論

討論課題:

19:00-20:00 グループ発表

20:00-20:30 発展講義

11月13日

Lecture II: 『記憶と空間認識の回路機構:神経表象の生成機構を探る』

北西 卓磨(東京大学大学院 総合文化研究科)


多くの脳領域で、特定の情報に対応して活動する神経細胞が見つかっています。こうした神経表象が脳機能の基盤と考えられ、細胞の活動パターンが精力的に研究されています。一方で、神経表象がどのような分子・細胞・回路メカニズムにより生成され、また、生成された表象がどのように活用されるかは、ほとんど分かっていません。本講義では、海馬の空間表象 (場所・方向・道順などの情報表現) を題材に、その生成機構について考えます。半世紀前に発見された場所細胞の生成機構はどこまで分かっているのか、なぜまだ決系的な理解に達しないのか、そもそも何が分かれば理解したことになるのか、先行研究を概観しつつ考察します。そして、現状を乗り越え、神経表象の生成原理を解明するにはどうすれば良いか、皆さんで考えたいと思います。自由な発想が生まれる場となることを期待します。

9:00 -10:00 基礎講義

10:00-12:00 グループ討論

討論課題:

12:00-13:00 昼食

13:00-14:00 グループ発表

14:00-14:30 発展講義

Lecture III: 『予測符号化理論に基づく認知発達と発達障害』

長井 志江(東京大学)


乳幼児の認知発達はどのような神経基盤に支えられているのだろうか.乳幼児が獲得する社会性やそこに内在する個性の発生機序は,まだ未解明な部分が多い.本講演では,脳の統一原理とされる予測符号化理論に基づいた計算論的研究を紹介する.講演者は,感覚信号と予測信号の誤差,つまり予測誤差を最小化する過程が認知発達を導くと提案してきた.予測符号化に基づく神経回路モデルを用いて,予測機能の学習とその変調が,さまざまな認知機能の発達と多様性を生じることを示してきた.これらの結果に基づいて,自閉スペクトラム症などの発達障害者の理解と支援を目指す取り組みについても紹介する.

15:00-16:00 基礎講義

16:00-18:00 グループ討論

討論課題:

19:00-20:00 グループ発表

20:00-20:30 発展講義

11月14日

Social activity

9:00-13:30 散策・昼食

Lecture IV: 『神経活動の高次統計量から回路構造を読み解く』

島崎 秀昭(京都大学)


生きている動物の神経活動から背後の回路構造を同定することは神経科学研究に必要とされる基本的な技術である.各国のコネクトームプロジェクトにより詳細な回路図が得られつつある今日にあっても,認識・行動とともに駆動する責任回路を活動から特定する事の重要性は失われない.従来,そのような回路構造は2つの神経細胞間の相関解析を網羅的に行うことで推定されてきた.しかし,この手法は観測された神経細胞間の結合を探す手法であることに注意する必要がある.大規模記録が可能になったとはいえ,一部のモデル動物を除き記録される神経細胞群は全体のごく一部である.観測された神経細胞は観測外の神経細胞からの影響を受けており,特に観測外の神経細胞からの共通入力によって相関を伴う様々な活動を示しうる.そこで,観測外の神経細胞からの共通入力の構造を観測された神経細胞の集団活動から特定できないかという疑問が湧く.神経細胞集団の活動の統計構造は回路構造だけでなく,シナプス入力がどのようにシナプス後細胞の発火に至るのかという神経細胞の非線形な入出力関係にも依存する.逆にいえば,この関係に関する仮説のもとで集団活動の統計構造から回路構造を推定できる可能性がある.最近の研究で,興奮・抑制がバランスした生体内の神経細胞活動の入出力関係を表す理論式をもとに,3つの神経細胞の高次を含む相関構造から共通入力の結合構造とそのタイプ(興奮/抑制)を推定する手法を構築している.今回のチュートリアルではこの手法を解説し,これ用いてAllen Institueの大規模データの解析を行ってもらう.様々な脳の部位や入力刺激の違いによって回路構造がどのように変化するか,またはしないのかを確認し,議論・考察してもらう.

13:30-14:30 基礎講義

14:30-16:30 グループ討論

討論課題:

16:30-17:30 グループ発表

17:30-18:15 発展講義

Special lecture: 『数理物理から神経科学に関わった個人的理由』

篠本 滋(国際電気通信基礎技術研究所(ATR))


私は35年間の長きにわたって大学の物理教室に勤めながら神経科学に関わってきました。定年退職した後は研究所の客員研究員をしています。この講演では、人生のいくつかの岐路で自分がなにを考えてどういう選択をしてきたかをご紹介したいと思います。教育では物理に関わりながら研究では神経科学に関わる、という独特な立ち位置に強い思い入れはあったのでしょうか。あらためて「私には神経科学への愛はあるんか?」ということを自分に問いかけてみたいと思います。大学を退職して物理学にも神経科学にも義理はなくなった今、「けっきょく自分にとってどういうことが大事なのか」について考えてみたいと思います。

19:30-20:30 特別講演

11月15日

Lecture V: 『脳の潜在情報表現を探る』

西本 伸志(大阪大学 大学院生命機能研究科)


ヒトの脳神経系は、視聴覚などの物理的な感覚入力や主観的な情動、記憶の想起や未来の予測、新たな事業や科学等に関する抽象的な概念など、多様な知覚・認知に関わる情報を処理しています。これらの情報の物理的な実体は脳・神経活動の時空間パターンであり、脳がどのように多様な知覚・認知情報を表現しているかを知ること(脳の潜在情報表現を知ること)は、脳の理解やその各種応用において重要な意味を持ちます。特に昨今の各種機械学習/AIモデルの発展に伴い、脳とAIという似て非なる知的エージェント間における潜在情報表現の対照、あるいはそれらの融合を介した様々な研究パラダイムや応用の可能性が広がっています。本講演では、特にヒト脳内における情報表現を対象に、研究例の紹介と議論を行います。

9:00 -10:00 基礎講義

10:00-12:00 グループ討論

12:00-13:00 昼食

討論課題:

13:00-14:00 グループ発表

14:00-14:30 発展講義

解散

ASCONE2022参加者からのメッセージ

小竹 皓貴(北海道大学 理学部生物科学科 B4)

想像以上に刺激的な4日間でした。医学/工学/理学など非共通の知識を持つメンバーが集まり、脳という共通の興味に関して議論する体験は他の場所では得難いです。他の人々の論理の組み立て方や発表の技法に生で触れるうちに、自分の理想の姿が可視化されていくような感覚がありました。この体験を日頃の研究/考察に活かし成長した自分でもう一度参加したいです。

村松 光太朗(東京大学大学院 情報理工学系研究科 M1)

学生以外にも現役の医師や社長など多種多様な方々が集まり、所属専攻では必ずしも話題を共有できない神経科学の立ち入った部分まで議論できました。昼食・夕食・懇親会でも「好きな数学上の概念」をはじめ、話題が自在に飛び火し発散していく様が快感でした。分野的にまだまだ素人の身ですが、素人なりに議論に食らいつく経験を通して、もっと学びたいという(良い意味での)焦燥感が駆り立てられる貴重な機会だと感じます。

野上 素子(CiNet リサーチアシスタント)

私は神経科学の勉強を始めたばかりで最初は不安だったのですが、まっすぐで熱い姿勢をもった仲間に刺激を受け不安を忘れるほど楽しむことができました。私が参加して1番嬉しかったのは、仲間と議論し発表し合うことで自分自身もその一部になっていると実感できたことです。とても刺激的で楽しい4日間でした。私のように事前知識が少なくても、脳に興味をもっているのであれば参加をおすすめします。

小川 大翔(福井高専 電子情報工学科 5年)

「最年少かつ高専生の僕はうまくやれるのだろうか」なんて不安は杞憂でした。 一番の驚きは、「異分野の人との討論はこんなにも話題が発散するのか!」ということでした。僕のチームは、討論を仕切るのが得意な人、問題の定義や切り分けが得意な人、知識や経験が豊富すぎる人、問題解決が得意な人、と多種多様で本当に楽しい討論でした。散策や夜のオンライン懇親会などでは、チーム以外の参加者や先生とも雑談できました。沢山の学びを得て、研究者になりたいという思いがより強まりました。 やる気さえあれば楽しめます。ぜひ参加してみてください!

門間 信明(東北大学大学院 工学研究科 M1)

非常にエネルギー溢れる人が集まっていて唯一無二の場所だなと感じた。こんなにも質問がやまず、いろんなバックグラウンドを持つ人が集まる場は今までになかったのでとても良い刺激になりました。

運営

寺島 裕貴(NTT コミュニケーション科学基礎研究所)
瀧山 健(東京農工大学 工学研究院)
船水 章大(東京大学 定量生命科学研究所)
佐々木 拓哉(東北大学 薬学部)
鮫島 和行(玉川大学 脳科学研究所)
酒井 裕 (玉川大学 脳科学研究所)

主催

日本神経回路学会