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日本神経回路学会 オータムスクール

ASCONE2017 『脳のリズム』

Autumn School for Computational Neuroscience

2017年11月3日(金・祝)〜 2017年11月6日(月) かたくら諏訪湖ホテル(JR上諏訪駅 徒歩10分)

厳正な選考の結果、21名の採用を決定いたしました。

講義スケジュール

1講師1トピックについて、以下のスケジュールで行っていきます。
  1. 「基礎講義」(約1時間)
    問題意識までの導入を行います。 例えば、不思議な脳の現象などを紹介し、 その問題を考えるための材料を提供します。
  2. 「グループ討論」(約2〜3時間)
    小グループに分かれて、提示された問題について自ら考えながら、 チューター、講師らと共に討論します。 最終的にそのグループの意見として全体に発表できるように、 意見をまとめていきます。
  3. 「グループ発表」(約30分)
    各グループで行った討論の結果を代表者が全体に発表します。
  4. 「発展講義」(約30分)
    講師による解説を行います。

11月3日

12:00- 受付 (昼食を済ませてから集合してください)

13:00-13:15 開催の辞

Lecture I: 『ヒト脳の振動同期ダイナミクスの操作的機能研究』

講師:北城 圭一 (理化学研究所 脳科学総合研究センター)

チューター:横山 寛(長岡技術科学大学大学院 工学研究科)

ベルガーが約100年前にヒトの脳波のリズム現象を発見して以来、ヒトの脳について、脳波や脳磁図で計測した振動同期関連のダイナミクスについての研究が行われてきました。しかしこれらのダイナミクス機能的意義についての結論はまだまだついていません。本講義では健常者での多様なリズムダイナミクスについての神経相関研究、及び、脳卒中患者等の病態データ解析研究を紹介し、さらにTMS,tACSなどの脳刺激手法を用いた操作的研究を紹介します。これらを元に脳のリズム現象に関するヒトの脳機能の研究の新たな方向性について議論を行います。

13:15-14:15 基礎講義

14:15-16:15 グループ討論

討論課題:「脳のリズムに対する操作の効果を検証する方法を考えよう」
  • 自発的な脳のリズム自身は非常にゆらいでいる。
  • 操作によって過渡的に起こる脳活動もある。
  • そのような状況で効果を検出しなければいけない。

16:15-16:45 グループ発表

16:45-17:15 発展講義

18:00-19:00 夕食

19:00-21:00 Welcome party

Satelite Lecture: 『脊椎動物の進化と創発』

講師:筧 慎治 (東京都医学総合研究所)

 
 

21:00-24:00 Poster Session

11月4日

Lecture II: 『海馬の神経回路計算におけるオシレーションの役割』

講師:藤澤 茂義 (理化学研究所 脳科学総合研究センター)

海馬は、エピソード記憶や空間認識を司っている脳部位です。海馬がこれらの脳機能を実行するとき、神経活動のオシレーションが重要な役割を果たしていることが知られています。とくに海馬では、脳の状態(brain state)に応じて theta wave(7-11Hz)や ripple wave(150-250Hz)など異なった周波数帯域のオシレーションが自己組織的に形成され、それぞれ異なった機能を果たしています。今回の講演では、海馬の神経回路計算におけるオシレーションの役割について、神経生理学的観点から議論していきます。

9:00 - 10:00 基礎講義

10:00-12:00 グループ討論

討論課題:「Phase precession のメカニズムを考えよう」

12:00-13:00 昼食

13:00-13:30 グループ発表

13:30-14:00 発展講義

Lecture III: 『リズム間の関係性を見る』

講師:青柳 富誌生 (京都大学大学院 情報学研究科)

チューター:堀之内 翔太、枡井 啓貴(京都大学大学院 情報学研究科)



脳の活動を計測すると、ニューロンから全脳までさまざまなレベルでリズムを伴った神経活動が見られ、高次機能と関係がある実験的示唆も多数報告されています。一方で、リズム活動を生成してる実体は、多くの場合膨大なニューロンが複雑にネットワークを構成した系であり、具体的な数理モデルを構築することは一般に困難です。このため、そのようなリズミックな神経活動を数理モデルで研究する場合に、本質を見抜く直感やセンスの良いモデリング能力に頼っているのが実情です。
 一方、非線形力学系の理論では、散逸力学系で生成されるリズムは、共通の数理的枠組み(位相振動子の相互作用ネットワークの微分方程式系)により統一的に記述出来ることが知られています。この事実から、位相振動子モデルを最初から仮定して、実験データの時系列をできるだけうまく説明出来るような具体的な形を求めるという方針が考えられます。講義では、上記で説明したリズムに関する理論的な基礎を解説し、さらに統計科学の知見を活用することで、データから位相振動子モデルを推定することが現実的な状況で可能になる例を示し、神経系のリズムに関するデータ駆動型の研究の可能性を示します。

15:00-16:00 基礎講義

16:00-18:00 グループ討論

討論課題:

データの信号源が結合位相振動子系と仮定した相互作用関数の推定において下記のことを考えよう。

  • 気をつけるべきこと
  • 誤った解析になってしまう事例
  • 手法をより良く改良する案、もしくは教訓
  • 応用したら面白いと思う実験データ例

18:00-19:00 夕食

19:00-19:30 グループ発表

19:30-20:00 発展講義

21:00-24:00 ポスターセッション

11月5日

Lecture IV: 『身体性とリズム』

講師:我妻 広明 (九州工業大学大学院 生命体工学研究科)

チューター:加藤 義隆、D. Batbaatar(九州工業大学大学院 生命体工学研究科)

指振りで知られる脳身体系のリズム(Kelso, 1983)は、グローバルエントレインメント(GE)と呼ばれる状態空間上に観測される大域的リミットサイクル生成のダイナミクスとして理解できます。身体制御における安定性においても、同様のダイナミクスが得られ、多賀らの二足歩行運動の神経筋骨格系モデル(Taga et al., 1991)がよく知られています。ここで示されたことは、適応的歩行パターン生成は、非線形振動子のネットワークを制御器、筋骨格系を被制御器として定式化でき、実際に振動子系がGEの中心的役割となり安定性に寄与することです。これまで、制御器である非線形振動子の配置・結合・内部特性は力学系の観点から様々検討されてきたものの、被制御器とした筋骨格系自体が自律系で周期や位相の状態空間を有することはあまり議論されてきませんでした(Komoda & Wagatsuma, 2015)。リハビリテーションや支援具の有効性検証、障がい者スポーツのダイナミクスなど、身体各部の自由度の過不足について言及すれば、単純化した連結剛体の開リンクモデルは不十分であり、骨格同士の関係や接地によって閉リンクとなる拘束系や、腱・筋・靭帯の弾性特性により得られる振動特性の数理化に踏み込む必要があります。従来から用いられてきたニュートン=オイラー法による個別方程式の組合せだけでは、方程式追記が容易であるもの全体的な見通しが得られにくいという難点がありました。ここでは、生理学を反映した微細モデルに過度に立ち入らずに、ダイナミクスに主軸を置きつつ、状態空間の全体様相の分析を容易にする方法として、局所座標系と全体座標系を統合的に扱う一般化座標を導入したマルチボディダイナミクス(MBD)を取り扱います。汎用型運動方程式を微分代数方程式(ヤコビ行列)として扱うMBDの基礎から発展を議論し、制御器としての非線形振動子と融合解析する手法を試みます。

9:00 - 10:00 基礎講義

10:00 - 12:00 グループ討論

討論課題:

蔵本モデルのシミュレーションをして、結合を変えると何が起こるか、なぜそれが起こるのかを考えよう。

12:00-13:00 昼食

13:00-13:30 グループ発表

13:30-14:00 発展講義

Lecture V: 『脳波のリズム異常と制御』

講師:栁澤 琢史 (大阪大学 国際医工情報センター)

脳波や脳磁図は神経細胞の膜電位変化の総和として計測される比較的マクロな振動現象です。そのリズムの特徴と病的状態との関係については、様々な研究がなされてきました。脳波のリズムの異常は病的活動状態の指標となるだけではなく、病気の原因の一つであるとも考えられます。本講義では脳波におけるPhase-Amplitude Couplingに注目し、生理的活動における機能的役割と、その異常としてのパーキンソン病との関係などについて紹介します。また、脳波をDecodingすることで脳情報を抽出し、これを用いたニューロフィードバックによって脳波を修飾することで、脳の機能を修飾する試みについて紹介します。脳波で捉える脳のマクロなリズム現象と、脳の病気との間の因果関係について議論します。

14:30-16:00 講義

16:00-18:00 グループ討論

討論課題:

脳のリズム異常は疾患と関連している。 脳のリズム異常は病気の原因か、結果か? 脳波を変えれば病気が良くなるか?

18:00-19:00 夕食

19:00-19:30 グループ発表

20:00-24:00 ポスターセッション

 
 
 
 
 
 
 

11月6日

Lecture VI: 『大脳基底核機能とその破綻:神経活動の異常リズムは何を意味するのか?』

講師:橘  吉寿 (神戸大学大学院 医学研究科)

チューター:兎田 幸司(産業技術総合研究所)

運動発現に不可欠な神経基盤として、脊髄ならびに大脳皮質運度野が真っ先に挙げられます。また、これらの運動発現をより巧緻なものとする脳構造として、小脳ならびに大脳基底核の存在が古くから知られています。特に演者がこれまで研究対象としてきた大脳基底核は、その機能異常によりパーキンソン病・ジストニア・バリスムといった重篤な運動疾患が生じることからも、運動発現に大きく関与することが容易に想像できます。大脳基底核は、線条体・視床下核・淡蒼球・黒質という複数の核から成る複合体であり、大脳皮質から入力を受け、視床へ投射し、再度大脳皮質に戻るといったループ回路を形成しています。また、大脳基底核内において、それぞれの構成核が相互に神経連絡を持ち、非常に精密な局所回路を形成しています。本講義では、大脳基底核の解剖学的な神経連絡、それを基とする運動発現機構をまず説明します。続いて、パーキンソン病・ジストニア・バリスムといった大脳基底核疾患にみられる大脳基底核内の異常リズム活動とそれを形成するメカニズムについて考えていきます。さらには、情動・認知といった高次脳機能を担う大脳基底核神経回路の律動的活動についても考察を加えます。

9:00 - 10:00 基礎講義

10:00 - 12:00 グループ討論

討論課題1:

大脳皮質ー大脳基底核回路には、 運動ループの他にも、認知機能・情動機能に関する ループ回路が存在する。

  1. それらが関連する大脳基底核疾患を予想し、 それらの疾患に対して、
  2. どのようなアプローチで
  3. どの回路に
  4. どのような操作を加え
  5. どのようなメカニズムを予想して
  6. どのような治療効果を期待するか

考えてみよう。

討論課題2:

大脳基底核のリズムは一体何を意味しているのか? さらに踏み込んで、大脳基底核が存在する意味は 何であるのか?

12:00-13:00 昼食

13:00-14:00 グループ発表

14:00-15:00 発展講義

解散

ASCONE2017参加者からのメッセージ

黄 子彦(東京大学 教養学部 B3)

ASCONEにはかなり期待していましたが、良い意味で裏切られました。各々がそれぞれの専門性を持ちつつも、共通して脳研究に対して熱い情熱を抱えた同世代の方々と討論する日々は非常に貴重で、かけがえのないものでした。脳、人間に興味があるなら参加して間違いないです。心ゆくまで議論して、自分と異なる考え方を吸収して、楽しんで、今後に生かしていってほしいです。

小澤 歩(お茶の水女子大学 理学部 B4)

参加前は、脳に関する知識不足から話についていけず楽しめないのではないかと不安を抱いていましたが、杞憂でした。刺激的な4日間を経て、脳に関してぼんやりと抱いていた漠然とした関心が、もっと知りたいという強い気持ちに変わったのを感じています。脳に興味のある方には、専門分野を問わず応募をおすすめします。 -

高木 志郎(慶應義塾大学 経済学部 B4)

非常に刺激的な時間でした。普段は出会うことのない様々な背景を持つ方々と、「脳の理解」という一つの目的のために議論するというのは非常に貴重な経験です。他の分野の知識を得られるのももちろんですが、他の分野の考え方、問題に対する態度に触れることが出来るのが非常に面白いです。普段自分の専門にいるとしないようなものの見方や問いの立て方を知ることは必ずや今後研究をしていくうえで大きな財産となると思います。是非参加を検討してみてください。

田路 栄博(立命館大学 理工学研究科 M1)

asconeではいろいろな分野の人たちと出会うことができます。そこでお互いの専門や研究分野の話をすることによって自分の研究分野がどのように活きるのか、また自分がどのようにして大学で学んでいけばよいのかを知ることができます。私ももう一度参加したいです。

谷本 彩(東京大学医学部 B5)

素晴らしい講師の先生方と、様々な分野の優秀な人たちに囲まれて、たくさんの刺激を受けた密度の濃い4日間でした。今まで馴染みがなかった分野の話をいろいろ聞いて、新しい物事の捉え方に気づけました。数学や物理を大学でしっかりと勉強していなかったので難しかったですが、活発な議論をわくわくしながら聞き、もっと勉強したいと思いました。ぜひまた参加したいと思える、とても楽しい合宿です。

角田 圭輔(大阪大学 医学系研究科 D1)

数理・工学から神経生理まで多様なバックグラウンドを持つ参加者が集まり、議論を深めた今回の合宿は非常に貴重な経験でした。プレゼン発表に向けたグループ内での議論では限られた時間の中で、グループ内で共通認識を作り意見をまとめる作業は難航しましたが、大変勉強になりました。さらに、講義終了後も夜遅くまでメンバーで様々な話題で意見を交わすことができ、とても楽しかったです。参加を迷っている方には是非応募をお勧めします。

運営

鮫島 和行(玉川大学 脳科学研究所)
酒井 裕 (玉川大学 脳科学研究所)
田中 宏和(北陸先端科学技術大学院大学)
筒井健一郎(東北大学 生命科学研究科)
山本 慎也(産業技術研究所)
渡辺 正峰(東京大学 工学系研究科)

顧問

丹治 順 (東北大学包括的脳科学研究・教育推進センター)
銅谷 賢治(沖縄科学技術大学院大学)
 

主催

日本神経回路学会

共催

新学術領域研究(文部科学省 科学研究費補助金)