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日本神経回路学会 オータムスクール

ASCONE2023

Autumn School for Computational Neuroscience

2023年11月28日(火)〜 12月1日(金)  ホテル一宮シーサイドオーツカ(JR上総一ノ宮駅)

厳正な選考の結果、22名の採用を決定いたしました。

講義スケジュール

1講師1トピックについて、以下のスケジュールで行っていきます。
  1. 「基礎講義」(約1時間)
    問題意識までの導入を行います。 例えば、不思議な脳の現象などを紹介し、 その問題を考えるための材料を提供します。
  2. 「グループ討論」(約2〜3時間)
    小グループに分かれて、提示された問題について自ら考えながら、 チューター、講師らと共に討論します。 最終的にそのグループの意見として全体に発表できるように、 意見をまとめていきます。
  3. 「グループ発表」(約30分)
    各グループで行った討論の結果を代表者が全体に発表します。
  4. 「発展講義」(約30分)
    講師による解説を行います。

11月28日

14:20- 受付 (昼食を済ませてから集合してください)

14:50- 開催の辞

Lecture I: 『機械学習 ✕ 脳科学:学習と記憶のメカニズムから』

深井 朋樹(Okinawa Institute of Science and Technology)


脳の面白さは、複雑な環境に適応する行動原理を自ら学習する能力にある。また誰もが知るように、脳の学習能力を巧妙に模倣するAIが近年、急速に発展してきた。このような学習や記憶の神経基盤は、神経細胞間のシナプス結合が活動度依存に伝達効率を変化させる、シナプス可塑性であると考えられている。シナプス可塑性に関して、半世紀以上にわたり、多くの実験的、計算論的研究が行われてきた。また近年は機械学習のアルゴリズムを脳科学に逆輸入する試みもある。そこで本講義では以下のような内容について議論する。

基礎講義 - さまざまなシナプス可塑性のモデル
単一神経細胞による教師なし学習に関して、基礎的内容から少し発展的な内容までを議論する。具体的にはスパイク時間依存のシナプス可塑性(STDP)の実験と計算論的モデルや、ベイズ計算や予測学習から導かれるシナプス可塑性規則と計算論的機能について学ぶ。時間の都合上、教師付き学習には触れない。

発展講義 - 記憶の回路モデルの最近の動向
近年、概念学習や自然言語処理との関係が指摘されるなど、海馬や嗅内野による空間ナビゲーションが、脳科学とAIの両面から注目されている。この流れを踏まえ、連想記憶モデルなどの最近の研究について紹介する。

15:00-16:00 基礎講義

16:00-18:00 グループ討論

討論課題:
  • AI研究には脳研究は必要か、それとも機械学習で十分か?
  • 脳 and/or AI研究、次の一手あるいは大問題は何だと思うか?
  • Hebb学習で為し得る情報処理を挙げ、簡単に内容を説明してください。
  • 意識研究を神経科学に落とし込むと言われたら何を研究するか? またAIは意識を持てると思うか?

19:00-20:00 グループ発表

20:00-20:30 発展講義

11月29日

Lecture II: 『脳が生きているとはどういうことか』

毛内 拡(お茶の水女子大学)


脳が生きているとはどういうことでしょうか。身体の健康寿命が延長する一方、脳やこころの健康についての理解は未だ不十分です。脳が健康で正常に機能しているとはどういうことか改めて問い直す必要があります。脳研究では、これまで、ニューロンのシナプスを介した速くて精緻なデジタル的な相互作用に関する研究が中心的に行われてきました。しかし、脳の情報伝達には、グリア伝達、神経調節物質の拡散性伝達、広範囲調節系、脳脊髄液と間質液の交換や細胞外電場による非シナプス的な相互作用が重要な働きをしています。私はそれを「脳のアナログ情報伝達」と呼び、その未知なるメカニズムの解明に取り組んでいます。脳のアナログ情報伝達が破綻した場合に生じる病態や、脳のアナログ情報伝達の正常化による治療法等について研究しています。

9:00 -10:00 基礎講義

10:00-12:00 グループ討論

討論課題:
  • 脳が生きているとはどういうことだろう?

12:00-13:00 昼食

13:00-14:00 グループ発表

14:00-14:30 発展講義

Lecture III: 『計算論的精神医学:精神医学における数理・データ科学の役割と展望』

山下 祐一(国立精神・神経医療研究センター)


現行の精神障害の診断分類は、患者自身の主観的報告と医師による行動観察に基づいており、生物学的知見・病因・病態生理に基づいた体系にはなっていません。また、近年の生物学的知見の蓄積によっても、診断、重症度評価、予後や治療反応性予測が可能な生物学的指標が確立されていないという問題を抱えています。近年の、計算機性能の飛躍的な向上や、数理科学の洗練により、精神医学が直面するこれらの問題克服に、数理モデル(脳計算理論)やデータ科学を用いた手法を適用することへの期待が高まっています。このような研究は、「計算論的精神医学(Computational Psychiatry)」と総称されて活発な研究領域を形成し、精神医学研究において重要な位置を占めると目されるようになっています。本講義では、計算論的精神医学の代表的な研究方略を概観し、具体的適用事例を紹介します。続いて、グループ討論では、計算論的精神医学の現状とその進展の可能性を整理し、直面している限界や、特に重点的に検討すべき研究課題について議論します。

15:00-16:00 基礎講義

16:00-18:00 グループ討論

討論課題:
  1. 計算論的精神医学の現状整理と課題
    1. データ駆動・理論駆動(計算論的表現型同定、損傷シミュレーション)各アプローチの長所・短所は?
    2. それぞれを活かすために、重点的に取り組むべき精神医学的課題、そのための実験・研究パラダイムはどのようなものか?
    3. 各手法の短所を克服する方法、進めるべき方向性は?
  2. 未来予想
    1. 現代・近未来AIで克服できる精神医学的問題とは何か?(逆に、できないことは何か?)
    2. 活用すべき技術・学問領域にはどんなものがあるか?
    3. 計算論的精神医学が扱うべき新しい問題は?
  3. 社会的インパクト
    1. 生じうる社会的・倫理的問題の可能性
    2. 計算論的精神医学がもたらしうる価値観の変化?

19:00-20:00 グループ発表

20:00-20:30 発展講義

11月30日

Social activity

9:00-10:00 ポスター発表

10:00-13:00 御宿海岸散策

昼食

14:00-14:30 ポスター発表

Lecture IV: 『予測ってなんだろう:予測的な行動の神経機構』

濱口 航介(京都大学)


動物が環境について何も知らない時,何が良い行動か分からず,行動選択は試行錯誤的にならざるを得ません.環境について学習した後は,自分自身の行動によって環境がどう反応・変化するか予測できるため,予測に基づく柔軟な行動選択が可能になります.ヒトや動物の多くが,何等かの形で,環境に関する「知識」を用いた予測的な行動選択を行っているという証拠がありますが,その神経メカニズムはよくわかっていません.本講義では,「予測的な行動選択」の神経メカニズムを調べるための理論と実験について紹介します.脳が実装する行動選択のアルゴリズムを理解する事で,変化する現実世界で適切な行動を選ぶ人工知能の開発や,不適切な行動をしてしまう病的な脳の状態を理解するための,重要な知見が得られると期待できます.

15:00-16:00 基礎講義

16:00-18:00 グループ討論

討論課題:
  • 予測が必要な認知課題を一つ考え,これを解くアルゴリズムを提案し,脳内での実装の可能性について議論してください.
  • 発表では,他のグループの参加者に予測が必要な認知課題を解かせた後で,提案アルゴリズムを発表してください.

19:00-20:00 グループ発表

20:00-20:30 発展講義

12月1日

Lecture V: 『機械学習と機能的MRI研究』

近添 淳一(株式会社アラヤ)


機能的MRIは非侵襲的に人間の高次認知機能を調べることができるツールであって、近年の神経科学研究においては欠かすことのできない基盤となっています。特に、機械学習を応用することにより、様々な知見がえられており、本講義では、その基礎と応用例を概説します。

9:00 -10:00 基礎講義

10:00-12:00 グループ討論

12:00-13:00 昼食

討論課題:
  • 脳とartificial neural networkの対応をつけるとして、どういうモデルとどういう認知機能の対応を見てみたいか?
  • どういうモデルは脳と対応が強そうで、どういうモデルは対応が弱そうか、その理由を説明しよう。

13:00-14:00 グループ発表

14:00-14:30 発展講義

解散

ASCONE2023体験記

日本神経回路学会誌に体験記が掲載されています。

福井 雄翔(大阪大学 生命機能研究科 M1)

「ASCONE体験記:脳と機械・人工知能を見つめ直す」

松田 萌愛(山口大学大学院 創成科学研究科 M1)

「ASCONE体験記:脳の柔軟な運動制御メカニズム解明に向けて」

山田 貴巨(早稲田大学 先進理工学専攻 博士一貫D1[M1相当])

「ASCONE体験記:探求と発見の4日間:理論神経科学の祭典」

ASCONE2023参加者からのメッセージ(一部)

小山 元暉(九州大学 システム生命科学府 M2)

目が覚めた瞬間から、眠る瞬間まで、ずっと脳のことを考え続けられ、目の前にはいつでも脳のことを話し合える人がいる、という環境が3泊4日続いたのがASCONEでした。多種多様なバックグラウンドの参加者に配慮された講義内容で、全員にちゃんと伝わる言葉を話すのが難しいこともありましたが、分野間の知識の差を補いつつ盛んに議論ができました。 個人的に最も楽しかったのは講義外の時間です。第一線で活躍している研究者の方に気軽に質問でき、雑談することができたので、話を何度も何度も深掘りすることができました。 とにかく、気になったなら応募してみてください!

石井 山音(東京大学 薬学部 B4)

モデルベースの神経科学をほとんど知らない状態で参加したため、うまく議論できるか不安だったのですが、周りの参加者もさまざまなバックグラウンドを持っており、それぞれ得意を生かしてパズルのピースを埋めるように、脳科学という共通の課題に対して議論することができました。脳という未知の対象へのアプローチとして、型に嵌らない発想力を養うことができる貴重な機会になったと思いました。

大西 健太(一橋大学大学院 社会学研究科 D1)

脳に少しでも興味があるのであれば、参加申し込みをしてみると良いと思います。まず、参加申し込みの提出書類の1つが「脳に対する興味を800~1000字程度でまとめた文章」なので、これを書いているうちに必然的に自分がどの程度脳に興味があるのかが分かると思います。そして、運よくASCONEに参加できたのであれば、「脳にうっすら興味を持っていた」という感覚が、「もっと脳を知りたい、研究したい」という感覚に変化している可能性が高いと思います。実際に、B2の参加者の方は「博士課程に行くか迷っていたが、ASCONEに参加したことがきっかけで、博士課程に行くことを決めた」と言っていました。そこまでの変化が生じずとも、「脳っておもしろいなあ」と感じることができる4日間だと思います。少なくとも、自分の周りの脳に興味を持っている人びとに対しては、ASCONEへの参加を自信をもってお薦めしていきます。

江川 史朗(国立精神・神経医療研究センター モデル動物開発研究部 ポスドク)

私自身は計算論や機械学習に関してはまったくの初心者で、分野外から胸を借りる形で参加させて頂きました。一番感動したのは、学部生からポスドク・医療従事者までが同じテーブルでフラットに議論できる場が出来あがっていたことです。この会で同世代・次世代のみなさんの熱量とクリエイティビティに触れたことが、おそらく一生モノの経験になると思います。

上岡 丈晃(玉川大学 脳科学研究科 M1)

小脳を熱く語る方もいれば、脊髄に津々たる興味を注ぐ方もいれば、意識の話でなければ夜も日も明けない方もいました。しかし共通していたのは、脳を自分なりに理解したいというエネルギーで、そんな参加者や先生と気軽に話せて、研究を面白がってもらう良い機会でした。脳やAIが理解できると何が嬉しいかということを考えたい方、自分の勉強や研究に新しい刺激を得たい方は、バックグラウンドにかかわらず、参加されるとよいと思います。

匿名希望(東京医科歯科大学 精神科 特任助教)

これまで若手向けの合宿等にいくつか参加してきましたが、ASCONEの熱気は桁違いでした。議論や寝食を共にした参加者達とは互いの興味や強みを感じあい同志のような連帯感が生まれ、講師や運営の先生方には通常のセミナーでは感じられないような親しみと憧れを覚えました。そして何より研究へのモチベーションが激増しました。

窪田 総介(早稲田大学 先進理工学部 B2)

初学会かつB2ということもあり、講義やグループディスカッション等で想像以上に多くの刺激を受けることができました。特に、神経回路を専門にしている方々だけでなく、広く脳に興味を抱くメンバーが揃っていたこともあり、単に知識だけでなく議論の効率的な進め方や発表のメソッド、鋭いご指摘への受け答えなどを生で経験できたことでどんどん自分が成長していることを強く実感できました。基礎知識がなくてもchatGPTなどを活用してなんとか喰らいつくことができたので、少しでも脳に興味があれば参加する価値があると思います!

脇坂 貴大(熊本大学 医学部医学科 5年)

たった3泊4日と短期間ではあったものの、様々なバックグラウンドをもった優秀な仲間たちと脳に関して早朝から深夜まで時間を忘れるほど深く語り合うことができたのは、想像以上でまたとない、絶好の機会でした。さらに、彼ら彼女らとの議論を通して自分が神経科学を本当に好きであることが再確認でき、研究に対する自分自身のモチベーションが今まで以上に高まりました。参加できて本当によかったです。

許 鈺婷(東京大学 情報理工学系研究科 D1)

今回のASCONE2023は自分の留学生活にとってはとても貴重な経験だと思っております。先生、スタッフと参加者の皆様、心から感謝いたします! 唯一の留学生なので、少し不安でしたが、その不安は初のグループ討論で解消されました。グループ内の皆さんはいつも私を配慮して、自分の観点を聞いてくれて、わかりやすく伝えてくれて、楽しくみんなと一緒に勉強と熱い議論ができました。母語が異なっても、こういう最高の雰囲気が感じられて、満足しています。 そして、グループ以外の方でも、食事や散歩の時に親切に話かけてくれて、色々な人々と楽しくおしゃべりができました。皆様のおかげて、とても幸せな4日間を過ごしました。 最後に、先生たちの分かりやすい講義のおかげて、神経科学研究をもっと多くの視点から勉強できました。特に、私は以前神経科学においての機械学習手法応用について壁を感じて、なかなかその辺の研究の理解ができなかったのですが、今回の講義と討論のおかげて、強化学習、深層学習などの神経科学への応用の魅力を強く感じられました。さらに、グループ討論で、難しい手法やアルゴリズムがあっても、グループみんなの活発な議論の後で理解ができました。この過程はとても痛快でした。以前、複雑な手法に対して嫌な気持ちになりやすかったのですが、今こういう壁が消えてしまって、今後の勉強にもとても大事な成長だと思っています。 今後も、今回の経験とmemoryを大切しつつ、研究を頑張っていきます!!ありがとうございました!

運営

寺島 裕貴(NTT コミュニケーション科学基礎研究所)
平 理一郎(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科)
瀧山 健 (東京農工大学 工学研究院)
船水 章大(東京大学 定量生命科学研究所)
佐々木 拓哉(東北大学 薬学部)
鮫島 和行(玉川大学 脳科学研究所)
酒井 裕 (玉川大学 脳科学研究所)

主催

日本神経回路学会

共催

新学術領域研究(文部科学省 科学研究費補助金)