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日本神経回路学会 オータムスクール

ASCONE2013 『運動 〜 身体を動かす脳の謎』

Autumn School for Computational Neuroscience

2013年10月11日(金)〜 2013年10月14日(月) かたくら諏訪湖ホテル(JR上諏訪駅 徒歩10分)


Lecture I 『大脳皮質と脊髄間結合から考える随意運動制御』
講師:西村 幸男(生理学研究所)
補佐:加藤 健治(総合研究大学院大学)

Lecture II 『目的志向の運動制御』
講師:森本 淳 (ATR脳情報研究所)
補佐:杉本 徳和(NICT)

Lecture III 『運動野は何を表現し計算しているのか』
講師:田中 宏和(北陸先端科学技術大学院大学)

Lecture IV 『運動学習の計算理論とその障害』
講師:井澤 淳 (NTTコミュニケーション科学基礎研究所)
補佐:神原 裕行(東京工業大学)

Lecture V 『大脳基底核 23の問題』
講師:南部 篤 (生理学研究所)
補佐:知見 聡美(生理学研究所)

Lecture VI 『運動記憶の冗長性とその機能的意義』
講師:野崎 大地 (東京大学大学院 教育学研究科)
補佐:瀧山 健  (玉川大学/日本学術振興会)  

1講師1トピックについて、以下のスケジュールで行っていきます。
  1. 「基礎講義」(約1時間)
    問題意識までの導入を行います。 例えば、不思議な脳の現象などを紹介し、 その問題を考えるための材料を提供します。
  2. 「グループ討論」(約2〜3時間)
    小グループに分かれて、提示された問題について自ら考えながら、 チューター、講師らと共に討論します。 最終的にそのグループの意見として全体に発表できるように、 意見をまとめていきます。
  3. 「グループ発表」(約30分)
    各グループで行った討論の結果を代表者が全体に発表します。
  4. 「発展講義」(約30分)
    講師による解説を行います。

10月11日

12:30- 受付 (昼食を済ませてから集合してください)

13:00-13:15 開催の辞

Lecture I  『大脳皮質と脊髄間結合から考える随意運動制御』

講師:西村 幸男(生理学研究所)
補佐:加藤 健治(総合研究大学院大学)

大脳皮質一次運動野から脊髄運動ニューロンを結ぶ皮質脊髄路は、霊長類で特に発達しており、系統発生学的に新しい神経経路である。それが一度切断されると、自分の意思で体を制御することができなくなってしまう。本講義では、シナプス結合、ニューロン活動、古典的な損傷実験など生理学的な立場から、皮質脊髄路の機能を紹介する。また、脊髄損傷や脳梗塞後の随意運動麻痺を如何にして再獲得するか議論する。

13:15-14:15 基礎講義

14:15-16:15 グループ討論

討論課題:
様々な神経疾患や損傷患者に対して、コンピュータを介した人工的な神経インターフェイスを施すことによって、患者の役に立つ方法を考える。 以下の点を明確にして発表する。
  1. どのような疾患や損傷に対して
  2. どのモダリティの入力を、
  3. どこから入力信号を記録し、
  4. どこに出力するか?
  5. 信号変換方法とその利点
  6. 予想される結果
  7. 予想される問題点
  8. 問題点の解決方法

16:15-16:45 グループ発表

16:45-17:15 発展講義

18:00-19:00 夕食

19:00-21:00 Welcome party

10月12日

Lecture II 『目的志向の運動制御』

講師:森本 淳 (ATR脳情報研究所)
補佐:杉本 徳和(NICT)

ある種の運動は、ある種の目的をもって生成されているという考え方がある。そこで、ある目的関数を設定した場合に、それを最大化または最小化するような運動をどう導くかが問題となる。そのような問題に対するアプローチとして最適制御手法の紹介を行う。

9:00 - 10:00 基礎講義

10:00-12:00 グループ討論

討論課題:
  • 倒立振子を最適制御するシミュレータ(カルマンフィルターあり)を使ってみよう。
    • 重さや長さを変えてみよう。
    • 目的関数を変えてみよう。
    • 制御則を変えてみよう。
    • ノイズの大きさを変えてみよう。
    • 隠れ状態を導入してみよう。
  • 倒立振子の制御をヒトの運動制御に置き換えてみるとどんなことがいえるか?
  • ヒトの運動制御の何がわかっていないのか? それを解決するためにはどうすればいいか?

12:00-13:00 昼食

13:00-13:30 グループ発表

13:30-14:00 発展講義

Lecture III 『運動野は何を表現し計算しているのか』

講師:田中 宏和(北陸先端科学技術大学院大学)

皮質運動野が対側の身体運動を制御しているというFrisch & Hiztig (1870) の発見から140年余り経過したが、未だに運動野がどのような計算を行い何を表現しているかに関して合意は得られていない。伝統的にはEvertsの筋活動仮説やGeorgeopoulsの外部空間運動仮説、最近ではHatsopoulosのpathlet仮説、ChurchlandとShenoyの力学系仮説やSussiloとAbbottのリカレントネットワーク仮説と、百花繚乱であり運動野の統一見解には程遠い状況である。また最新版のPrinciples of Neural SciencesでKalaskaは「運動野はニュートン力学の運動方程式を解いていない」と言い切っている。では運動野は一体何をしているのか?本講演では運動野に関する計算論的研究を概説し、「運動野は何を表現し計算しているのか」に関して議論する。

15:00-16:00 基礎講義

16:00-18:00 グループ討論

討論課題:
  • 運動野は何を表現し、何を計算しているのか?
    • 運動野は運動方程式を解いているのだろうか?
      • Yes → どうやって?
      • No → 代わりとなる理論は?
  • 指の運動は上肢と同じ形の運動方程式であるが、サイズや質量が異なる制御対象に対して、同じ制御方法でいいのか?
練習問題:
  • 上肢2関節運動のキネマティクスで、手先の外部座標と関節角との関係式を導出
  • 上肢2関節運動の運動方程式をEuler-Lagrange法を使って導出
  • 上肢2関節運動の運動方程式をNewton-Euler法を使って導出

18:00-19:00 夕食

19:00-19:30 グループ発表

19:30-20:00 発展講義

21:00-24:00 ポスターセッション

10月13日

Lecture IV 『運動学習の計算理論とその障害』

講師:井澤 淳 (NTTコミュニケーション科学基礎研究所)
補佐:神原 裕行(東京工業大学)

自閉症を持つ脳は、どうして協調運動障害を生成するのか?小脳の変性は、どのように運動失調を生成するのか? 本講義ではまず、脳が運動を学習する計算論的機構について確認し、これを応用して変性を持つ脳が特異的な運動を生成する機構について考える。

9:00 - 10:00 基礎講義

10:00-12:00 グループ討論

討論課題:
  1. 運動学習の特性を捉えるために運動データのどのような指標に着目すればいいのか?
    ヒント
    • ピーク速度の推移は?
    • 加速度の推移は?
    • 手先軌道の分散はどのように変化する?
    • 学習のし易さはターゲットごとにどのように変化する?
    • 学習には軌道の誤差が重要なのか、タスクの成功失敗が重要なのか?
    • 工学的な観点からの妥当性: 最適制御、カルマンフィルタ、内部モデル
    • 脳の特性: tuning function, receptive field, neural dynamics
  2. 着目した指標は学習と共にどのように推移すると思いますか? 脳における運動学習システムを考えたとき、どうしてその指標が重要なのですか? 仮説を立ててみましょう。 仮説を数式で表現してみましょう。
  3. 着目した特性が試行と共にどのように推移するのかプロットしてみましょう。
  4. 数式がデータに当てはまるかどうか model fitting を行ってみましょう。

12:00-13:00 昼食

13:00-13:30 グループ発表

13:30-14:00 発展講義

Lecture V 『大脳基底核 23の問題』

講師:南部 篤 (生理学研究所)
補佐:知見 聡美(生理学研究所)

ある行動を実行すべきか否かの判断は、その結果得られると予測される報酬の価値に大きく依存する.この場合の価値は、量や確率などの外部変数だけでなく、判断する時点において主体がどの程度その報酬を必要とするかという内部状態も影響する.講義では、一定の行動を実行する/しないの判断について動物の実際の振る舞いを紹介し、その背景にある原理や脳内機構について議論する.

15:00-16:00 基礎講義

16:00-18:00 グループ討論

討論課題:
  • 皮質ー基底核ループはどのようにつながっているのか?
  • 直接路・間接路モデルは正しいのか?
  • 線条体はどんな計算をしているのか?
  • 基底核は大脳皮質や視床の活動にどのように貢献しているのか?
  • 基底核の機能は何か?
  • 運動障害の病態生理は?
  • 原因部位の除去による治療はどのように働くのか?
上記の問いからいくつかを選び、(もしくは文献から自ら問いを見つけ)
  1. 問題を定式化し、
  2. 検証できるような具体的な実験計画を立て、
  3. 予想される結果とその意味を議論。

18:00-19:00 夕食

19:00-19:30 グループ発表

19:30-20:00 発展講義

21:00-24:00 ポスターセッション

10月14日

Lecture VI 『運動記憶の冗長性とその機能的意義』

講師:野崎 大地 (東京大学大学院 教育学研究科)
補佐:瀧山 健  (玉川大学/日本学術振興会)

身体運動のどのような特徴が脳に表象されているのか?議論の絶えない大きな問題であるが、身体運動がある脳内表象に一意的に対応しているという確信が、このような問い自体の成立要件になっているように思われる。しかし、脳の活動が身体運動を引き起こすという因果関係、そして脳に膨大に存在する神経細胞を考慮すれば、同じ脳活動が異なる身体運動を引き起こすことは確かに非論理的である一方、同じ身体運動が異なる脳内表象を持っていてもおかしくはない。講義では、両手ー片手運動の例などを通じて脳の運動記憶が冗長性を持つことを紹介しながら、そのような機能的意義について議論したい。

9:00 - 10:00 基礎講義

10:00 - 12:00 グループ討論

練習問題:
  1. Matlab等のプログラミング言語を使って、片手と両手で相反する力場を学習する場合のシミュレー ションを行い、学習曲線を求める。 オーバーラップの度合いを変えると、学習度やウォッシュアウト時の動態がどのように影響をうけるかについても調べる。
  2. 多数の運動方向に対応するチューニング関数の線形和で学習するモデルで、運動方向の差と学習転移の関係(汎化関数)を求め、 チューニングの深さと汎化の深さの関係について述べる。
討論課題:
  • 左右両半球の一次運動野の相互作用の大きさには 非対称性がある。この非対称性と両手運動の制御との関連は?
  • 運動学習メモリの切り替わりが見られると予想される他の例は? その機能的意義は?こうした切り替わりは脳内表象の違いに起因すると考えてよいのか?

12:00-13:00 昼食

13:00-13:30 グループ発表

13:30-14:00 発展講義

Satelite Discussion

14:30 - 15:30 

解散

参加者からのメッセージ

伊藤 健史(北海道大学 医学部 B3)

共通の興味を持った若い研究者が全力で議論を尽くすことのできる貴重なイベントだと感じました。学部生が少なかったですが、温かく受け入れてもらえますので恐れずに応募してみてください。

長野 祥大(慶應義塾大学 環境情報学部 B3)

非常に密度の濃い4日間でした。 学部生でも参加しやすい雰囲気で、普段はできない貴重な経験が出来ました。 興味のある方はぜひ応募なさってみて下さい。

岩崎 翔(東京大学 工学部 B4)

脳に関する知識が乏しい中参加したASCONEでしたが、脳の不思議な現象についての講義、他分野の方との議論を通して脳に対する興味が一層深まりました。また、自分の勉強してきた内容をもとにどうアプローチするかということを考える重要性を再確認しました。このような機会を与えてくださった、酒井先生、鮫島先生をはじめとする運営の方々、講義をしてくださった先生方,また議論を交わした参加者の方々に深く感謝しています。

大井 博貴(旭川医科大学 医学部 医5年)

諏訪湖ホテルにほぼ軟禁状態で、朝から晩まで脳について考えるというハードなスケジュールでしたが、非常に刺激的で濃密な4日間を過ごせました。脳に対する医学的なアプローチしか知らなかった自分にとっては、工学的な考え方が特に新鮮で、医学は脳における一つの側面でしかないことに気付かされました。最後に、この4日間を共に過ごした仲間は自分にとってかけがえのない財産であり、将来この中の誰かと共同研究できる日を楽しみにしています。

鈴木 智貴(北海道大学 医学部 医5年)

本当におもしろく充実した4日間でした!場所も良かったです。

重倉 桃子(慶應義塾大学 基礎理工学専攻 M1)

とても充実した4日間でした。色々な視点から研究を見つめ直すいい機会となりました!

藤本 哲朗(北陸先端科学技術大学院大学 M1)

今回多様なバックグラウンドを持つ他の研究者の方との交流、作業を通じて、脳の運動機能への理解が深まったのはもちろんの事、研究者として基礎的な部分から成長する事が出来たと感じています。

安河内 竜二(京都大学大学院 理学研究科 M1)

理論系から実験系まで、多種多様な分野の同年代の研究者と交流、第一線で活躍されていらっしゃる講師陣による講義。知的好奇心をくすぐられっぱなしの4日間でした。

横山 寛(長岡技術科学大学大学院 工学研究科 M1)

初めて参加させて頂きました.4日間という短い期間にて,他では体験できないような濃密なスケジュールを通し,深い知見を得ることが出来ました.特に,ある事象に対しモデルベースでグループで議論し,自分たちの仮定を定式化すると言った,ディスカッションのプロセスは今後の研究に大きく役立つ経験となりました.ASCONEでの経験を活かして,頑張っていきたいと思います.

小川 展夢(東京工業大学大学院 総合理工学研究科 M2)

自分の研究室の外で,同世代の方々とこれだけ密な議論をさせていただいたのは初めてでした. どなたも熱意に満ち溢れていて,大きな刺激を受けました. 貴重な機会をいただき、ありがとうございました.

高木 優(奈良先端大学院大学 情報科学研究科 D1)

世界最先端で活躍されている講師陣の方々による講義、意識・実力共に高い選抜された学生との議論、 そしてスタッフの先生方も含めた皆さんとの深夜まで続く刺激的な(かつ笑いの絶えない)飲み会。 ASCONE2013で得られたこれら全ての機会が、今後の研究生活に活きてくるということを確信しています。

武見 充晃(慶應義塾大学大学院 理工学研究科 D2)

「多くの知識と知的刺激が得られる、研究分野の友人ができる、異分野の人とのコラボレーションを身を以て学べる」 ASCONEを端的に表してみました。ぜひWEBページを見ているあなたにも、この言葉の意味を体感して欲しいと思います。

内村 元昭(大阪大学大学院 生命機能研究科 D3)

とても面白く、大変勉強になりました。機会があればまた参加したいと思います。

東郷 俊太(名古屋大学大学院 工学研究科 D3) web

他分野の方達と脳の運動制御に関して濃密なディスカッションを通して交流することができ、非常に良い刺激をたくさん受けることができました。ありがとうございました。

植山 祐樹(国立障害者リハビリテーションセンター研究所)

学部卒業以降は、みんなで講義を受け、それについて議論をするという機会がほとんど無かったため、非常に刺激的で勉強になりました。

饗庭 絵里子(産業技術総合研究所 健康工学研究部門 学振PD)

普段は交流することのない分野の人達と,様々な課題について真剣に議論でき,非常によい経験になりました.最初,自分の研究領域とはテーマが随分と離れているように感じていましたが,今後に活かせる知識やノウハウをたくさん得ることができました.

運営

鮫島 和行(玉川大学 脳科学研究所)
酒井 裕 (玉川大学 脳科学研究所)
田中 宏和(北陸先端科学技術大学院大学)
筒井健一郎(東北大学 生命科学研究科)
山本 慎也(産業技術研究所)
渡辺 正峰(東京大学 工学系研究科)

顧問

丹治 順 (東北大学包括的脳科学研究・教育推進センター)
銅谷 賢治(沖縄科学技術大学院大学)
 

主催

日本神経回路学会

共催

新学術領域研究(文部科学省 科学研究費補助金) 東北大学包括的脳科学研究・教育推進センター