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日本神経回路学会 オータムスクール

ASCONE2016 『人工知能に意識は宿るか?』

Autumn School for Computational Neuroscience

2016年11月3日(木・祝)〜 2016年11月6日(日) かたくら諏訪湖ホテル(JR上諏訪駅 徒歩10分)

厳正な選考の結果、28名の採用を決定いたしました。

講義スケジュール


Lecture I 『意識の神経科学:意識の謎と統合情報理論入門』
講師:土谷 尚嗣(Monash University)

Lecture II 『信頼と説得の知能:人狼ゲームから考える自己・他者の意識の意味』
講師:大澤 博隆(筑波大学 システム情報系)

Lecture III 『意識の問題への理論的・数理的アプローチ』
講師:大泉 匡史 (理化学研究所 脳科学総合研究センター)

Lecture IV 『人工意識をつくるための理論的フレームワーク』
講師:金井 良太 (Araya Brain Imaging, CEO)

Lecture V 『自由意志と意識の統合的理解に向けてのロボット構成論研究』
講師:谷 淳  (KAIST)

Special Lecture 『数理脳科学を目指して』
講師:甘利 俊一(理化学研究所 脳科学総合研究センター)

講義形式

1講師1トピックについて、以下のスケジュールで行っていきます。
  1. 「基礎講義」(約1時間)
    問題意識までの導入を行います。 例えば、不思議な脳の現象などを紹介し、 その問題を考えるための材料を提供します。
  2. 「グループ討論」(約2〜3時間)
    小グループに分かれて、提示された問題について自ら考えながら、 チューター、講師らと共に討論します。 最終的にそのグループの意見として全体に発表できるように、 意見をまとめていきます。
  3. 「グループ発表」(約30分)
    各グループで行った討論の結果を代表者が全体に発表します。
  4. 「発展講義」(約30分)
    講師による解説を行います。

11月3日

12:00- 受付 (昼食を済ませてから集合してください)

13:00-13:15 開催の辞

Lecture I: 『意識の神経科学:意識の謎と統合情報理論入門』

講師:土谷 尚嗣(Monash University)

意識の問題がなぜ面白く、重要で、しかし、難しいのかを解説します。この意識の謎の壁を打ち破る可能性が最も高いと期待されている統合情報理論を導入します。チュートリアルでの問題を通して、IITへの理解が深め、IITに対しての恐れを取り除き、今後何を解決すべきかをクリアにすることを目指します。

13:15-14:15 基礎講義

14:15-16:15 グループ討論

討論課題:「意識と[X]の関係性」

X=身体・感情・記憶・学習・言語・自意識(自己意識)・思考・論理・情報・統合・etc

意識にXは必要か? Xに意識は必要か?

  • 意識とXにできるかぎり明確な定義を与えてから議論。
  • 2x2のテーブルでさまざまな状況を考える。
  • なぜか? 理論的な観点・進化的な観点から考える。

16:15-16:45 グループ発表

16:45-17:15 発展講義

18:00-19:00 夕食

19:00-21:00 Welcome party

21:00-24:00 Poster Session

11月4日

Lecture II: 『信頼と説得の知能:人狼ゲームから考える自己・他者の意識の意味』

講師:大澤 博隆(筑波大学 システム情報系)

本講義では、コミュニケーションゲーム人狼を人工知能で解く、AIグランドチャレンジ「人狼知能」における知見を元に、自己の中の他者モデル、他者の中の自己モデルを理解する仕組みについて検討していく。人狼ゲームは自然言語を媒介とするスパイ発見ゲームであり、相手の意図を理解する推理と、相手の中に存在する自己をモデル化し、言語を介して相手のモデル変更を迫る説得が大きな要因となるゲームである。社会脳仮説において、人間の脳の進化の主要因となったと思われる社会的知能の要件を本ゲームを通じて探ることで、人の意識を必要とする要因について突き詰めたい。

キーワード及びトピックス:

人狼(werewolf)、コミュニケーションゲーム(communication game)、ヒューマンエージェントインタラクション(human-agent interaction)

9:00 - 10:00 基礎講義

10:00-12:00 グループ討論

討論課題:

人狼ゲームを通して、人間の脳が行っている社会的 な処理を「意識」して処理を書き下す。

  • ルール:
    • 7人村:村村村村占狼狼、村村村村占狼狂
    • 8人村:村村村村村占狼狼、村村村村村占狼狂
  • 必ず1人、昼に一度発言する。その際に、怪しいと思う人、その理由(相手のモデルがあればそれを含めて)述べる。
  • ゲーム終了後の感想戦で、行動にどういう意図があったか開示する。
    • 狂人を入れたとき、入れないときでどう推論が変化するか?

12:00-13:00 昼食

13:00-13:30 グループ発表

13:30-14:00 発展講義

  
湖畔での休憩

Lecture III: 『意識の問題への理論的・数理的アプローチ』

講師:大泉 匡史(理化学研究所 脳科学総合研究センター)

本講義では意識の問題への理論的・数理的なアプローチを解説し、人工知能の意識という問題を考える上での理論的な基礎を築くことを目指す。特に有用な作業仮説として、意識の統合情報理論(IIT)を詳しく解説する。IITは、物理的なシステム(例えば脳)が生み出す意識の量と質を、システム内部の『情報』と『統合』という観点から数学的に説明しようとする理論である。理論の非自明な予測は何か、理論を検証するためにどのような実験が必要かを議論する。こうした議論を通じて、意識という問題をより深く理解をするために、理論と実験の両方向から研究することの重要性を考えていく。

キーワード及びトピックス:

意識の統合情報理論(Integrated Information Theory of Consciousness (IIT))、情報理論(Information Theory)、Global workspace theory、Chinese room thought experiment

15:00-16:00 基礎講義

16:00-18:00 グループ討論

共通課題1:IITの公理

IITの公理は以下の基準で選ばれています。

  1. About experience itself.
  2. Evident: they should be immediately given, not requiring derivation or proof.
  3. Essential: they should apply to all my experiences.
  4. Complete: there should be no other essential property characterizing my experiences.
  5. Consistent: it should not be possible to derive a contradiction among them.
  6. Independent: it should not be possible to derive one axiom from another.

現在の公理、情報(information)、統合(integration)、構造(composition)、排他 (exclusion)が上記の基準を満たしているといえるかどうかを検討してください。 もし満たしていないと思える場合それを指摘した上で、代案を考えてください。 特に、Completeかどうかという点に関して、追加すべきと思う公理があれば指摘してください。

共通課題2:IITの実験的検証
  1. IITの正当性を検証するための実験(心理物理実験、行動 実験、生理学実験、等々)を考えてみてください。 特に、どうやれば正しさを証明できるかというより、どうやれば正しくないことを証明できるかを考えてみてください。
  2. (上記が難しそうだったら) IITの観点からやってみたら面白そうな実験、または自分がやってみたいと思う実験を発表してください。 結果も予想してみてください。

18:00-19:00 夕食

19:00-19:30 グループ発表

19:30-20:00 発展講義

21:00-24:00 ポスターセッション

11月5日

Lecture IV: 『人工意識をつくるための理論的フレームワーク』

講師:金井 良太 (Araya Brain Imaging, CEO)

人工知能がさらに発展していったら、自我や意識を持ち始めるのかという話題はSF映画などで頻繁に取り扱われる興味深いテーマである。このような問題に、現代の意識科学の観点からどのようなことが推測できるだろうか。また、現在の意識研究から生まれてきた理論をもとに、意識を工学的に実装することはできるだろうか。本講義では、人工意識について考える際の概念と理論を整理し、現象的意識の構築を目指すArtificial Consciousnessとアクセス意識の構築を目指すSynthetic Awarenessの2つの方向性を示す。前者では統合情報理論(IIT)のようなIdentity Theoryの役割を議論し、後者では自己言及性やメタ表現や予測コーディングといった情報の機能的側面から意識の機能について議論する。

キーワード及びトピックス:

Integrated Information Theory, Free Energy Principle, Artificial Consciousness, Synthetic Awareness

9:00 - 9:30 基礎講義

9:30 - 11:30 グループ討論

討論課題:
  1. 人工知能の意識を判別するにはどうしたら良いか?
  2. 意識を持つシステムを作るにはどうしたらよいか?
  3. 意識を持つ機能的利点は何か?
  4. 意識を作るのにハードウェアは重要か?

11:30-12:30 昼食

12:30-13:00 グループ発表

13:00-14:00 発展講義

Lecture V: 『自由意志と意識の統合的理解に向けてのロボット構成論研究』

講師:谷 淳 (KAIST)

本講義では、自由意志と意識に関する現象を統一的に説明しうる構造は、果たしてどのようなものか、講演者が、現象学、脳神経科学、非線形力学系、Deep Learning、学習ロボットなどを含む学際研究の結果から得たものを基に、議論していく。特にpredictive codingの原理に基づき構成された、認知ロボットの学習と行為の実験において、主観と客体は、如何に交りあい、かつ分離しうるのか、その動的構造を理解することにより、その背景に潜む意識と自由意志の統合的な構造の理解に迫ろうとするものである。

キーワード及びトピックス:

ロボット構成論、prediction and postdiction, deterministic versus stochastic dynamics, top-down and bottom-up interaction, 身体性、authentic being by Heidegger, recurrent neural network, upward causation and downward causation, deep learning of spatio-temporal perceptual flow, フッサールの主観的時間と流れ の分節化、カオスと記号力学系

15:00-16:00 基礎講義

16:00-18:00 グループ討論

討論課題:次の文章についてどう思うか、議論してください。

18:00-19:00 夕食

19:00-19:30 グループ発表

19:30-20:00 発展講義

21:00-24:00 ポスターセッション

 
 
 
 
 
 
 

11月6日

Special Lecture 『数理脳科学を目指して』

講師:甘利 俊一(理化学研究所 脳科学総合研究センター)

数理脳科学とはどのような構想に支えられ、どんな方法を用いているのだろうか。それは計算論的神経科学や脳のシミュレーションとはどこが違うのか。このような問題意識のもとで、数理脳科学の方法と成果を概括するところから始めよう。これには、統計神経力学、神経場理論、連想記憶、深層学習などが含まれる。

さらに、脳と人工知能の発展が大きな話題に上っている現状に鑑み、人工知能と理論脳科学の歴史をたどりながら、ASCONEの主題である意識の問題を考えて見たい。人工知能の発展にとって脳から学ぶ意識や自由意志などの機能が重要であることを指摘し、これらが人工知能にどう導入されていくのかを考えて見たい。

9:00 -12:00 講義(第1部)

12:00-13:00 昼食

13:00-15:00 講義(第2部)

解散

ASCONE2016参加者からのメッセージ

三澤 魁旺(京都大学 総合人間学部 B2)

途轍もなく濃い四日間でした。様々なバックグラウンドを持つ同世代の方々や、最先端で活躍している講師の方々とここまで濃密に脳について議論できる場は滅多にないと思います。沢山のすごい人達と会えるので、これからのやる気を貰えるとともに、自分を見つめ直す機会にもなりました。脳について少しでも興味があれば楽しめる場だと思います。また参加したい。

川島 陽太(東京理科大学 理工学部 B3)

ASCONEでは、他の参加者の方と一緒に考えることで、脳について色々な考えを知ることができました。特に、他分野の研究・勉強をされている方との考え方の違いをグループ討論の中で感じることができました。ASCONEは、脳を研究する上で様々な方法があることを実感できるとても良い機会です。

吉川 長伸(大阪大学医学部 B3)

刺激的なテーマ、講師陣、学生が集まる稀有な勉強会でした。振り返ってみると夢を見ていたような不思議な感覚に襲われますが、おそらく自分の人生の中で一つの核になるような、忘れられない経験になると思います。研究者っていいなぁと素直に思いました。

小谷 梨奈(大阪大学 基礎工学部 B4)

神経科学を、様々な分野の方々と活発に議論することは、私にとって初めての経験でした。知識が浅く、分からないことがたくさんありました。ですが、講師の方からだけでなく、参加者の方からも学ぶことができ、大変有意義でした。最先端の研究をただ一方的に聞くだけでなく、自分でよく考え、議論することで、さらに研究への関心が深まりました。

長谷川 聖人(東京薬科大学 生命科学部 B4)

期待と不安を胸に足を踏み込んだASCONEの会場。そこには、世界最先端の先生方や厳正な審査を通過した参加者達と、自分の論理的思考力の限界と闘いつつ、対等に議論を激しく交わすことのできる最高の環境が待っていました。かのF.Crickも議論を中心に偉大な研究成果を残してきたと聞いています。ぜひ応募者の方々もASCONEという「知の合宿」で一歩でも真理に近づく、そんな研究の一端に触れてみませんか?

木村 慧 (東北大学 理学部 B4)

参加者のバックグラウンドが多様で、普段ならあまり話すことのないような分野の学生や講師の先生方と場所も時間も気にせずフラットに議論できる雰囲気がASCONE最大の魅力だと感じました。参加を迷っている方はまず応募してみましょう。ここで得られた経験は数年後、数十年後にまで生きてくるものだと思います。

三輪 泰暉(東京大学 医学部 医学科5年)

4日間食事風呂睡眠以外全ての時間脳を働かせ議論をしていたように思います。数理系の知識が足らず苦労しましたが議論は十分に楽しめました。全国から集まった優秀な方々から受けた影響は甚大でますます努力せねばと考えております。少なからず脳に興味をお持ちであるならば参加することを勧めます。

西田 圭吾(大阪大学 生命機能研究科 博士一貫D1[M1相当])

神経生理学、計算神経科学、人工知能をはじめとする多様な専門を持つ方々と意識とは何か徹底的に考えられた貴重な4日間でした。上記の分野外からの参加でしたが、講義を聞き、グループ討論で理解を深めたことで、今後の研究に活かす種を見つけることができました。ASCONEは分野を越えて脳について議論できる素晴らしい環境です。

藤本 蒼(京都大学 人間・環境学研究科 D2)

一つのテーマに対し、全く違なる発想を持った人が多く集まり、 考え、表現し、まとめるという経験が出来る稀有な機会でした。 講師も含め、参加者は隔たり無く議論できる人ばかりで、 今後も刺激を受けていくことになると思います。

箕谷 啓太(東京工業大学 総合理工学研究科 D2)

ASCONEでは、素晴らしい先生方、同世代の方達と4日間もたっぷり話すことができます。普段の学生生活ではなかなか出来ない貴重で面白い経験になりますし、様々な人と交流を持つ良い機会になると思いますので参加することをおすすめします。私自身ももう一度参加したいです。

運営

鮫島 和行(玉川大学 脳科学研究所)
酒井 裕 (玉川大学 脳科学研究所)
田中 宏和(北陸先端科学技術大学院大学)
筒井健一郎(東北大学 生命科学研究科)
山本 慎也(産業技術研究所)
渡辺 正峰(東京大学 工学系研究科)

顧問

丹治 順 (東北大学包括的脳科学研究・教育推進センター)
銅谷 賢治(沖縄科学技術大学院大学)
 

主催

日本神経回路学会

共催

新学術領域研究(文部科学省 科学研究費補助金) CREST(JST 戦略的創造研究推進事業)