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日本神経回路学会 オータムスクール

ASCONE2018 『リアリティを生むメカニズム』

Autumn School for Computational Neuroscience

2018年11月23日(金・祝)〜 2018年11月26日(月) 諏訪レイクサイドホテル(JR上諏訪駅 シャトルバス10分)

厳正な選考の結果、21名の採用を決定いたしました。

講義スケジュール

1講師1トピックについて、以下のスケジュールで行っていきます。
  1. 「基礎講義」(約1時間)
    問題意識までの導入を行います。 例えば、不思議な脳の現象などを紹介し、 その問題を考えるための材料を提供します。
  2. 「グループ討論」(約2〜3時間)
    小グループに分かれて、提示された問題について自ら考えながら、 チューター、講師らと共に討論します。 最終的にそのグループの意見として全体に発表できるように、 意見をまとめていきます。
  3. 「グループ発表」(約30分)
    各グループで行った討論の結果を代表者が全体に発表します。
  4. 「発展講義」(約30分)
    講師による解説を行います。

11月23日

12:30- 受付 (昼食を済ませてから集合してください)

13:00-13:15 開催の辞

Lecture I: 『意思決定とクオリア: 即物的リアリティを支える視覚情報処理機構』

本吉 勇  (東京大学大学院 総合文化研究科)


私たちはふだん様々な事物に目を向け,それらに対して反応をする.この刺激と反応のあいだの機能的関係のみに着目すると,人間は目に与えられた視覚情報を処理し意思決定をする無機質なマシンであるといえる.しかし,それと同時に,目を向けた事物が生々しい現実感をもって私たちの意識に上ることも確かである.本講義では,知覚的意思決定やアウェアネスに関する既存の知見も参照しつつ,意識の「内容」であるリアリティあるいはクオリアが(もし存在するならば)どのような情報処理に支えられているかについて考える.

13:15-14:15 基礎講義

14:15-16:15 グループ討論

討論課題:「ヒトはいかなる情報をもとにリアルかフェイクかを見分けているのか明らかにするための研究計画を立てよう」

かつてのCG画像は写真ではないことが即座にわかるものが多かったが,いまでは実世界と見紛うばかりのCG画像が映画などで広く用いられている. では,あるCG画像の知覚的な「リアリティ」を決定づけている画像の特徴は何だろうか? 言い換えれば,ヒトはいかなる情報をもとにリアルかフェイクかを見分けているのだろうか? この問いに答えるための研究の一つを計画し,具体的な手続きを説明してください.

重要な参照知識: Hany Farid の一連の研究,Eero Simoncelli の一連の研究

16:15-16:45 グループ発表

16:45-17:15 発展講義

18:00-19:00 夕食

19:00-21:00 Welcome party

21:00-24:00 Poster Session

11月24日

Lecture II: 『リアリティを創り出す身体性と予測性』

前田 太郎  (大阪大学大学院 情報科学研究科)

ヒトにとってのリアリティとはなんでしょうか?たとえばバーチャルリアリティは感覚提示技術を使って体験者に等価的なリアリティをもたらす技術です.そこにあるリアリティの実体は等価的な感覚と運動の連携情報でしかありません. ヒトが認識する世界とは脳内に描かれた「世界像」であり,ヒトは感覚情報を入力とし運動情報を出力としながら「世界像」を更新し続けています.その中でのリアリティとは「過去の経験をもとにした感覚知覚の予測」と「現在の感覚知覚」を比較して「強い注意を引く違和感を生じないほどに誤差が十分に小さい」状態であると定義できます. ヒトの予測=世界像は外界像と自己身体像から成っている情報処理の結果です.自己身体像を生み出す情報は身体性を「拘束条件=物差し」とする「計測=感覚」の結果として定義されています.ヒトの感覚や運動は錯覚や順応によって変容します.その変容や錯覚はモダリティや空間方向に留まらず時間方向にも広がりと関係性をもっているので,これを数理的にモデル化すれば,脳の働きを予測するだけで無く,その結果としての認識や応答を予測し,誘導するインタフェース技術を工学的に設計することも可能です.この講義ではこうした技術を用いた「バーチャルリアリティ」や「人間機能拡張技術」「行動誘導技術」,「意図推定技術」などを紹介しながら,ヒトを感覚―運動情報処理系と見たときの意識や記憶の成り立ちの必然について考えてみましょう.

9:00 - 10:00 基礎講義

10:00-14:00 グループ討論

討論課題:「こうして、こう」伝達実験の再現と考察

「こうして、こう」伝達実験

  1. 連続動作の撮影をする
  2. 数名の観察者が動画を見て、最小限の分節の区切りとなるコマを選ぶ
  3. 選ばれたコマだけを見た人が動作を再現する

討論項目

  • 選ばれたコマの特性について
  • 再現された動作と元の動作との差異について
  • ヒトが連続動作を記憶・再現する際に注目している特徴について

12:00-13:00 昼食

14:00-15:00 グループ発表

19:30-21:00 発展講義

Lecture III: 『光を通して知る世界:コンピュータビジョン技術による分光解析』

佐藤 いまり(国立情報科学研究所 コンテンツ科学研究系)


15:30-18:00

18:00-19:00 夕食

21:00-24:00 ポスターセッション

11月25日

Lecture IV: 『多変量データの因果関係分析: 官能評価を例として』

岡本 正吾 (名古屋大学大学院 工学研究科)

リアリティを生む技術によって結局リアリティは生まれたのか?を皆さんと一緒に考えます.リアルと言われるCGや人工物が創造されたとして,それが果たしてどの程度リアルなのかが評価されなければなりません.グループ討論では各グループは,何かしらの技術によってリアルな何かが誕生したとして,そのリアリティを多視点から評価するための実験設計,統計,論理を構築して頂きます.基礎講義では,その一助となる,また皆さんの普段の研究や学習にも役立つ,多変量間の因果関係モデリングの基礎をお話しします.具体的には,因果関係を相関から論じることの危険性と,その代替手段として偏相関を用いたモデル選択手法を紹介します.

9:00 - 10:00 基礎講義

10:00 - 12:00 グループ討論

討論課題:「リアリティを評価する(実験)方法を計画しよう」

具体的な「人工物」を一つ取り上げ、そのリアリティを評価する(実験)方法を計画してください。

  • 実験計画は、論理・統計・結論と一式である。
  • 実験の結果から結論を強く導き出すことができなければならない。
  • 難しそうな「人工物」を選ぶこと。
  • 次の点を複数カバーしていること。
    • 「人工物」の物理特性・刺激の物理特性
    • 人間に関して計測可能な量:主観量・行動量・生理量

12:00-13:00 昼食

13:00-13:30 グループ発表

13:30-14:00 発展講義

Lecture V: 『錯覚の実世界実装から見るリアリティ』

河邉 隆寛 (NTTコミュニケーション科学基礎研究所)

錯視を見た時、なぜ人はそれを「面白い」と思うのでしょうか。過去の研究は錯視の生起メカニズムについては詳しく検討してきたのですが、「錯視の面白さ」がどのように生じてくるのかという問題は扱ってきませんでした。この問題を考えるためには、多くの概念を系統立ててつなぎ合わせる必要があります。本講義では、様々な表現技法を使って錯視を実世界に実装した例を紹介し、「リアリティ」を軸としてなぜ錯覚が面白く感じられるのか、その理由について議論します。

14:30-16:00 講義

16:00-18:00 グループ討論

討論課題:「新しく作った錯視の面白さを判定する情報処理モデルを提案しよう」

18:00-19:00 夕食

19:00-19:30 グループ発表

20:00-24:00 ポスターセッション

 
 
 
 
 
 
 

11月26日

Lecture VI: 『視覚的世界を生み出す脳の働きを探る』

小松 英彦 (玉川大学 脳科学研究所)

郷田 直一 (生理学研究所)


知覚の神経機構を知る試みにおいては、三つの対象の関係を理解することが重要である。一つは「世界」である。世界の中に存在する事物が知覚の元になる。もう一つは「心」である。心の中で主観的な現象として知覚が生じる。そして三つ目が「脳」である。脳は世界で起きる物理的事象と、心の中で起きる心的事象である知覚を媒介する。知覚は生物的な機能であり、種にとって意味のある生物的な世界を脳のはたらき活動によって作りだす働きととらえることができる。そのために知覚には生物としての制約がかかっている。一方、知覚は世界における物理現象に基づいて生じるため、物理的な制約もかかっている。知覚における「世界」-「脳」-「心」の関係を理解するためには、そのような制約の存在を頭に入れておくことが大事であろう。ヒトの住む世界は、さまざまな分節化された事物から成り立っており、それぞれの事物の持つ質感がリアリティを生み出している。すべての事物が固有の質感を持つので、質感は極めて多次元で複雑な情報である。質感知覚において「世界」と「脳」と「心」がどのようにつながっているかを理解することで、世界の持つリアリティが生み出される仕組みの理解にもつながるだろう。質感を理解するためにどのようなアプローチが可能か考えてみたい。

9:00 - 10:00 基礎講義

10:00 - 12:00 グループ討論

討論課題:

バラエティにあふれた質感を持つ物に取り囲まれた世界を知覚する脳の働きを理解するためには、どのようなアプローチが考えられるか?

12:00-13:00 昼食

13:00-14:00 グループ発表

14:00-16:00 発展講義

解散

ASCONE2018参加者からのメッセージ

兼松 圭(豊橋技術科学大学 情報知能工学専攻 M2)

4日間の合宿では想像以上に刺激的な時間を送ることが出来ました。講義ではリアリティについて様々な側面からアプローチし課題に取り組みます。終了後に講師の方々が参加者と1対1で議論している姿が印象に残っています。また、同世代の積極的な参加者の方々を目の当たりにし、自分も頑張ろうという気持ちになりました。ASCONEは教わるだけでない貴重な経験を得ることができる合宿です、応募を強くお勧めします。

原 彰良(大阪大学 情報科学研究科 M1)

昨年の楽しかった経験が忘れられず今年も参加させていただきました. ASCONEでは様々なバックグラウンドを持つ参加者が著名な講師の方を交えて活発に質問や議論を行う非常に刺激的な4日間を過ごすことができます. 知識の有無にかかわらず楽しめる貴重な機会なので脳に興味がある方は是非参加することをおすすめします.

鈴木 啓大(奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 D1)

グループ討論中,個人個人ではどうしても自らの専門知識へと向かってしまいがちな発想が,全く別の視点から揺さぶられることで,どんどん面白い方向へと転がっていくことが何度もありました.これは,ASCONE参加者の背景の多様性の為せる業だと思います.ですので,今の自分の研究・知識に関わらず,脳に強い興味を持たれている方には,是非とも参加して欲しいと感じました.

小山 雄太郎(総合研究大学院大学 生理学研究所 博士一貫1年)

ASCONEの魅力は「心や脳の理解」というモチベーションを共有しつつもバックグラウンドが異なった同世代と交流を持てる点です.課題に共に取り組む過程で,自分には無い発想やスキルを用いて他参加者が問題を解決する姿を目にするはずです.それだけでも素晴らしい学びとなりますが,彼らと面識を得て将来に協働するチャンスすらあり,その意味で研究者としてのキャリアに大いに資する合宿です.

運営

鮫島 和行(玉川大学 脳科学研究所)
酒井 裕 (玉川大学 脳科学研究所)
田中 宏和(北陸先端科学技術大学院大学)
筒井健一郎(東北大学 生命科学研究科)
山本 慎也(産業技術研究所)
渡辺 正峰(東京大学 工学系研究科)

主催

日本神経回路学会

共催

新学術領域研究(文部科学省 科学研究費補助金)