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日本神経回路学会 オータムスクール

ASCONE2024

Autumn School for Computational Neuroscience

2024年11月25日(月)〜 11月28日(木)  ホテル一宮シーサイドオーツカ(JR上総一ノ宮駅)

厳正な選考の結果、23名の採用を決定いたしました。

講義スケジュール

1講師1トピックについて、以下のスケジュールで行っていきます。
  1. 「基礎講義」(約1時間)
    問題意識までの導入を行います。 例えば、不思議な脳の現象などを紹介し、 その問題を考えるための材料を提供します。
  2. 「グループ討論」(約2〜3時間)
    小グループに分かれて、提示された問題について自ら考えながら、 チューター、講師らと共に討論します。 最終的にそのグループの意見として全体に発表できるように、 意見をまとめていきます。
  3. 「グループ発表」(約30分)
    各グループで行った討論の結果を代表者が全体に発表します。
  4. 「発展講義」(約30分)
    講師による解説を行います。

11月25日

14:20- 受付 (昼食を済ませてから集合してください)

14:50- 開催の辞

Lecture I: 『質感豊かな世界を認識する心の機能理解をめざして』

澤山 正貴(東京大学)


人間が日常的に生活する環境には多様な質感を持つ物体が含まれている.例えば,日々の食事で口にする果物が新鮮かどうか,散歩に出かける際の路面が凍っているか,といった物体の質感を我々は日常的に認識している.質感の認識は人間の価値判断や行動とも繋がる情報処理であり,人間の知覚・認知機能を包括的に理解するためには,多様な質感を含めた自然環境における認識を検討することが重要となる.しかし,脳の情報処理自体が複雑であることに加えて,物理的に複雑な自然環境を考慮した場合に,どういったアプローチで何を目的に研究をすることが心の機能理解に繋がるだろうか.本講義では,知覚・認知に関わる先行研究を紹介しながらこの問題を考えていく.特に,感覚器によってセンシングした信号から,実世界の情報と関連した統計量をどのように特定するか,そして階層的な脳情報処理に対してどのような人工モデルを設計して比較することが機能的理解を進めるのかに着目をして議論していく.

15:00-16:00 基礎講義

16:00-18:00 グループ討論

討論課題:
  • 生物が行う実世界の認識において,認識の機能的な理解を達成するにはどうしたら良いかを考察してください.具体例を挙げて,仮想の実験計画を考えてください.
  • 実世界の特性とセンサ信号との間には情報の乖離があることを考慮し,センサ信号から実世界の特性を推定するモデルの設計には,どのようなデータセットでどんなモデルで何を学習すればよいかを考察してください.

19:00-20:00 グループ発表

20:00-20:30 発展講義

11月26日

Lecture II: 『デジタル脳は脳構造、脳活動、脳機能をつなげるか』

銅谷 賢治(Okinawa Institute of Science and Technology)


日本の大型脳科学プロジェクト「革新脳・国際脳」が2024年3月に終了し、その後継として「脳神経科学統合プログラム」が6年間のプロジェクトとしてスタートした。その大きな特徴は、マウスからヒトまで異なる種の脳の構造、遺伝子、結合、活動、そして行動など多様なデータを「デジタル脳」として統合し、脳機能の解明と精神神経疾患の診断、治療、予防に結びつけようとしていることである。

基礎講義では、理研CBSを中心とした「脳統合」中核機関の「デジタル脳」開発グループのリーダーである講師が、デジタル脳とはいったい何なのか、どんなデータと計算手法を使って構築しようとしているのか、どんな成果に結びつけることができるのか、現時点での計画を紹介したい。

グループ討論では、どんな「デジタル脳」をどのように作ることで、どのような理解や応用が可能になるのか、皆さんのアイデアや疑問を出し合いグループとしてのデジタル脳開発計画を提案してほしい。

発展講義では、進みつつあるデータ駆動モデル構築手法、そこでの大規模言語モデルの活用などについての話題を紹介したい。

9:00 -10:00 基礎講義

10:00-12:00 グループ討論

討論課題:
  • 「デジタル脳」とは何か?
  • デジタル脳をいかに作るか? データ/モデル/ツール/コミュニティ
  • デジタル脳をいかに使うか?

12:00-13:00 昼食・ポスター発表

13:00-14:00 グループ発表

14:00-14:30 発展講義

Lecture III: 『脳活動の観察と解釈のギャップを考える』

礒村 宜和(東京科学大学(旧東京医科歯科大学))


脳はさまざまな機能を発揮するために活動の状態を時々刻々と変化させます。特に覚醒と睡眠のサイクルでは脳活動の状態は大きく変遷します。このような活動状態は、海馬や大脳皮質における神経細胞群のスパイク活動や脳波活動の変化として観察することができます。興味深いことに、海馬や大脳皮質の活動状態は、行動時とレム睡眠、安静時とノンレム睡眠でそれぞれ似通った特性を呈し、それらの変遷が認知や記憶などの機能に密接に関連することが示唆されています。

本講義では、ほぼ半世紀にわたる海馬の活動状態に関する生理学的研究の積み重ねを紹介します。なかでも齧歯類の海馬では、空間情報の処理機構をシータ波と鋭波リップルという活動状態の切換えで実現していることが確立されつつあります。

しかし、ここでは敢えて、多くの研究者が築き上げてきた海馬の定説がどれほど正しいのか少し疑ってみます。まあ、そうは言っても大概の定説はほぼ正しいものです。でも今日は、定説を疑う作業を通じて、皆さんに観察と解釈を常に分けて考える大切さを実感してもらいましょう。

15:00-16:00 基礎講義

16:00-18:00 グループ討論

討論課題:
  1. 今回の研究でみられた海⾺鋭波リップルはいったい何をしているのだろうか?
    • この実験条件での海⾺鋭波リップルや海⾺神経細胞の『役割』を推察してみてください。
    • その解釈(仮説)を証明するための『実験プラン』を企画してみてください。
  2. 新たな脳内現象や機構を探索する独創的な⾏動実験系を案出してください。
    • 対象動物の⽣態を活かした『⾏動装置』や『⾏動課題』を考えてください。
    • 動物種や⾏動・神経活動の観測⼿法の選択は⾃由です。

19:00-20:00 グループ発表

20:00-20:30 発展講義

11月27日

Lecture IV: 『脳を理解するとはどういうことなのだろうか』

丸山 隆一(編集者)


860億ものニューロンが相互に接続する、この極めて複雑な「脳」という対象を、果たして人間の脳で「理解」することができるのだろうか──そんな素朴な疑問を抱いたことはないでしょうか。計算論的計算科学の立役者の一人であるDavid Marr氏は、脳を理解するための3つのレベルという明晰なフレームワークを打ち出しましたが、Marr氏の見解は最終的な答えではないようです。神経科学者たちの議論を追っていると、「脳を理解するとはどういうことか」に関する討論が、今なお活発に交わされている様子が伺えます。

本パートでは、そうした議論のいくつかを紹介しつつ、特に近年の神経科学の大規模データ化やAI技術の進展を踏まえて、「これから脳はどのように理解されていくと期待できるか?」について皆様と議論できればと思います。さらに時間が許せば、近年の「神経科学の哲学」に関する著作(Chirimuuta『The Brain Abstracted』など)を参照し、あらためて「計算」という枠組みで脳を捉える意義とありうる限界についても考えてみたいと思います。話題提供者は神経科学の専門家ではなく、内容も非テクニカルなものになります。気軽に聞いていただき、面白い議論ができれば幸いです。

9:00 -10:00 基礎講義

10:00-12:00 グループ討論

討論課題:
  1. 20年後に(計算論的)神経科学が得ていてほしい「脳の理解」はなんでしょうか。
  2. なぜその理解が期待できるのでしょうか。
  3. なぜその理解を得たいのでしょうか。
  4. その理解は「Marrの3レベル」にあてはまるか考察してください。

12:00-13:00 昼食・ポスター発表

13:00-14:00 グループ発表

14:00-14:30 発展講義

Lecture V: 『言語の表現学習が問う「理解の理解」』

横井 祥(東北大学/理化学研究所)


莫大なテキストデータをひたすら復唱するという単純な指針で作られた言語モデルは、言語運用能力・知識量・非定型的なタスクの実行能力など多くの面でヒトと同等レベルの知性を身につけているように見えます。言語モデル氏自身はこうした知的な活動を「分かって」やっているのでしょうか。もし「分かって」やっているとして、その「分かっている」度合いはヒトと同様だと言えるのでしょうか。人類の手元に突然現れた知的なエージェントに対するこうした問いを通して、ヒトの理解について考えるのが本講義の目標です。

まず人工ニューラルネットに対する「侵襲的な」実験設定や数理モデルを概観します。その後、「あるエージェントが質問に答えられるなら、そのエージェントは問題を理解していると言って良いのか?」「あるエージェントとヒトが、それぞれその内部で世界を同様のやり方で把握しているなら、エージェントとヒトは同様に世界を理解していると言って良いか?」といった、人工知能・自然言語処理分野における具体的な課題と研究を紹介します。これらの事例をヒントとして使いながら、理解を理解するとはどういうことかという困難な問いに迫るための愉しい議論ができればと思います。

15:00-16:00 基礎講義

16:00-18:00 グループ討論

討論課題: 以下のいずれかの問題を検討してください
  1. 内部表現の評価を介して⼈⼯ニューラルネットが理解しているかを確認できると⾔えそうですか︖
  2. そもそも我々⼈類は⼈⼯ニューラルネットや脳について理解することができそうですか︖
  3. ⼈⼯NNの理解を通してヒトの理解に近づけそうですか︖

19:00-20:00 グループ発表

20:00-20:30 発展講義

11月28日

Lecture VI: 『理解の認知過程とその計算理論』

日髙 昇平(北陸先端科学技術大学院大学)


人を含む動物の「学習」の研究は100年以上の歴史を持ち、すでに社会や産業でも応用が拡がる「機械学習」として、高度な技術として大成しつつある。一方、「理解」の研究は、哲学的論考を含めれば100年を優に超える(1000年以上もの)歴史を持つとも言えるが、未だ「機械理解」なる技術の基盤は整備されていない。本講義では、あえて「学習」と対比して、それと異なる認知能力としての「理解」に着目し、その経験的な現象を整理し、それを捉えるための計算論的なモデルについて論じたい。

本講義では、いくつかある本質的な違いとして、「学習」は経験(データ)の反復回数におおよそ単調に成績が向上するのに対し、「理解」は一回(0回)でも成立する場合もあれば何回経験しても成立しない場合もあるなど不定である点や、「学習」は無意識にできるが、うっかり(つまり無意識に)「理解」はできないことなどを挙げる。こうした現象面での違いは、「学習」と異なり、「理解」にはある種の離散的・不連続な計算過程があることを示唆すると思われる。未だ定式化できてはいない「理解」の諸相を、錯視、洞察問題解決、帰納推論などの具体的な事例を通じて議論する。

9:00 -10:00 基礎講義

10:00-12:00 グループ討論

12:00-13:00 昼食

討論課題:計算理論的に(人の/あなたの)「理解」とは何か説明しよう
  1. 理解の関わる現象を一つ選ぶ。
  2. その現象で抑えるべきポイントを要約する。
  3. それらのポイントを説明するモデルを考える。
  4. モデルを必要十分に記述する定義(仕様)を与える。
  5. 発展(時間が余れば):定義したモデルで“ひらめき”の発生する機構があるか、あるならばどのような機能を持つと予想されるか説明を加える。

13:00-14:00 グループ発表

14:00-14:30 発展講義

解散

参加者の体験記

日本神経回路学会誌に体験記が掲載されています。

今井 崇人(千葉大学 理学部 B3)

「ASCONE体験記:知の起源を求めて」

中牟田 旭(京都大学大学院 情報学研究科 M2)

「ASCONE体験記:有効な分野間交流に向けた第一歩」

参加者からのメッセージ(一部)

廣中 高太郎(奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 M1)

こんなにも熱量を持つ人がいるのかと、強い衝撃を受けました。生物、物理、情報といった異なるバックグラウンドを持つ仲間との議論は、さまざまな考え方の面白さを感じさせてくれる一方で、容易には納得できない場面も少なくありませんでした。また、自分の考えを相手に十分伝え、納得させられないもどかしさを痛感することもありました。その結果、「脳を理解するとは何か」という問いに対し、自分自身の中で答えを出せなくなりました。しかし、自分の価値観が大きく揺さぶられ、視野が広がる貴重な場であることは間違いありません。

宮野 ゆりあ(東京農工大学 工学部生命工学科 B4)

ASCONEでは、朝から晩まで議論を交わします。講師の先生方から提供された話題はもちろんですが、自分の研究やほかの参加者の研究についても議論し、あらゆる切り口からの考えを受けて、普段の凝り固まった世界が一気に崩れて広がるような感覚です。先生方も学生もまるっと一緒になり、好奇心を満たしていくような時間になります。学部4年、研究を始めてまだ1年余りの私にとっては、議論がこれほどまでに楽しいものなのだと知る忘れられない4日間になりました。企画運営をしてくださった皆様、共に議論を交わしてくださった皆様に感謝しております。

村松 光太朗(東京大学大学院 新領域創成科学研究科 D1)

「『理解』にフォーカス」「メタな話が増える」。その前評判通り骨太なテーマばかりで、グループでの議論の方向性を模索するのも一苦労でした。しかしその分だけ他の人の考え方や専門性に触れることになり、自身の研究方針や哲学を見つめ直す貴重なきっかけとなりました。参加者は学部生をはじめ若手の方が多く、それでも(それだからこそ?)積極的に質問が飛び交い、圧倒されるばかりでした。世代や分野など気にせず、神経科学に少しでも興味がある方は奮ってご参加ください!

後藤 未色(東北大学 薬学部 B4)

とても充実していた4日間でした。様々なバックグラウンドの参加者や先生方との議論や交流を通して、自分の殻を破ることができました。学部生だと、まだ研究歴が浅く、周りの大学院生と十分に議論し合えるのか不安に思うかもしれませんが、ASCONEの雰囲気が挑戦する勇気を奮い立たせてくれます。脳への興味という共通点を持った仲間たちとの議論や交流を通して、自分とは異なる研究分野への理解や興味が広がりました。

法霊﨑 真琉(岩手県立大学大学院 ソフトウェア情報学専攻 M2)

脳がどれだけ複雑であるか,そして様々な分野/領域で興味が尽きない対象であるかを,参加者と講師陣から学べる貴重なイベントでした.ASCONEで異なる分野の方々と共通の話題で語り合うことで,自身の研究活動のモチベーションにつながり,また新たな研究仲間ができました.今どんな場所・分野に身を置いていたとしても,脳に興味があるのなら申し込むことをおすすめします.

金 美玲(東京大学 理学部 B4)

各分野で活躍する先生方の生講義と、高いモチベーションをもつ同世代の仲間との議論はASCONEでしか得られない貴重な学びでした。脳への深い興味だけを共通点に集い、各々の知識や考えを組み合わせながら脳への理解を言語化していく日々は非常に刺激的でした。脳の理解という究極テーマに対して、自身はどのような立場の研究を志したいのか?他のアプローチとどう接することができるか?といったことを深く考えられたことは自身にとって大きな財産になったので、研究経験がまだ浅い方もぜひ勇気を出して参加してみてください。

黒﨑 隼平(東京科学大学/国立精神神経医療研究センター D1)

神経回路学会の研究会にはなりますが、講師の方も参加者の方も様々なバックグラウンドの方がいらっしゃって、分野の垣根を越えて様々な知見を得ることができます。自分自身は小児科臨床医であり、脳科学に関しては殆ど事前知識がありませんでしたが、事前知識のある方の助けを得つつ、学ぶことの多い会となりました。脳が専門でない方にもおすすめです。

犬塚 健剛(広島大学 統合生命科学研究科 D1)

これまで外部環境での交流経験が比較的少なく、当初は不安でしたが、参加者それぞれが互いの立場を尊重する姿勢に心地よさを感じました。講義では、丁寧な基礎知識解説や質問対応のおかげで、神経科学の学習経験が浅い自分でも積極的に議論に参加できました。また、同年代と興味のあるテーマを濃密かつオープンに議論する貴重な機会であり、多様な背景を持つ人々との交流は、今後のキャリアにおいても有益な経験ができたと感じています。

大西 健太(一橋大学大学院 社会学研究科 D2)

常識的に考えると、4日間を費やして脳の講義を聞き、脳について考えたいと思う人は、少しおかしな人です。学会発表や論文投稿のように直接的な業績になる訳ではないのにも関わらず、脳の議論に4日間を費やそうと思ってしまう人は、普通ではありません。でも、だからこそ、脳に興味を持ったとても面白い人たちがASCONEには集まり、刺激的な空間が生まれるのです。少しでも興味があるならば、応募することをお勧めします。

守田 悠彦(名古屋大学 医学部医学科 B6)

3泊4日、脳について、文字通り朝から晩まで仲間と語り合った。この経験は唯一無二のもので、おそらく今後の私の進路にも大きく影響を与えると思います。自分は脳に直接は関係しない研究テーマで研究を行ってきましたが、ASCONEを機に、次のテーマは脳に直接関係するものにしようと思うようになりました。また、特に今回は「理解」がテーマということもあり、哲学的な議論が多めでした。実際に哲学から脳にアプローチするプロセスを体験することで、神経科学に限らない幅広い分野から脳を考えることが少しだけ「理解」できた、あるいはそのきっかけが掴めたと思います。 脳や関連分野に少しでも興味があれば、参加申し込みをすることをおすすめします。なぜなら、参加申込の際の「自身の脳に対する情熱」をまとめた文章を作成するだけでも、自分の興味が整理できるからです。そして、高い倍率を勝ち抜いて参加できた場合は、強い情熱を持つ仲間たちと熱く語り合い、さらに自身の興味を深めることができるでしょう。

運営

寺島 裕貴(NTT コミュニケーション科学基礎研究所)
平 理一郎(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科)
瀧山 健 (東京農工大学 工学研究院)
船水 章大(東京大学 定量生命科学研究所)
佐々木 拓哉(東北大学 薬学部)
西田 知史(情報通信研究機構 脳情報通信融合研究センター)
鮫島 和行(玉川大学 脳科学研究所)
酒井 裕 (玉川大学 脳科学研究所)

主催

日本神経回路学会

共催

学術変革領域(文部科学省 科学研究費補助金)